第5章 天才軍略家の大戦術

第45話 参謀長を探して


 ぶは〜〜〜〜!! やっぱり一仕事終えた後の、風呂はいいねぇ〜。


 でもこの大浴場にたった一人──なんかもっと、デカイ風呂なんだし、大人数で入りたいよな〜。


 でもエルもアグニスも女性だから、混浴はまずいな……。


 ってことは、残るはウーグだけか。

 まあ、一人よりもいいか。


 そして僕は、ウーグを呼んでくるようにメイドさんに頼んだ。


 すると、風呂場なのに、なぜか衣服を着たウーグが突っ立っていたのだ。


 「何してるんだ? ウーグも入れよ!」


 そう言うと、顔をブンブンと横に振るウーグ。


 ははぁ〜ん。さては水恐怖症か?


 そう言うのは逆療法が一番!


 「それそれそれ!!」


 僕はウーグにお湯をかけまくった。


 こう言うところは、まだ15歳だよな。


 「ま、まずいっすよ! お湯は!」


 「え? お湯は飲みものじゃないよ?」


 「違うっす! 大貴族でもない亜人が、お湯に浸かるなんて、夢のまた夢なんすよ!」


 「じゃあいつも、どうしてるの?」


 「近くの川で、水浴してるっす!」


 え? お風呂って貴族や王族の特権だったの?


 でも無礼講だ。ウーグには助けられてるし。


 「いいよいいよ。入っちゃって! 何か言われたら、教皇命令で入ったって言えばいいし」


 「ま、マジっすか!?」


 瞳を輝かせながら、話すウーグ。しかし、お風呂がそんなに貴重だなんて。


 そしてウーグも大浴場でお風呂に浸かり、極楽にいる様な顔をしている。その前に、良いこと思いついちゃった。


 「ところで、ウーグ君。一般市民はお風呂に入れないのか?」


 「そりゃ、当たり前っすよ! 湯船にどれだけ木材や人件費がかかると思ってるんすか! これは選ばれたものだけの、嗜みですよ。どこの国でもそうっす!」


 「ふっふっふ。どこの国でも? なら問おう、今この国には一番何が必要だ?」


 「そりゃ、人ですよ! 他国から避難民でも良いので、人を流入させて、対マギアヘイズに備えて人口を増やさないと!」


 考えるまでもなく、即答するウーグであった。


 「そうだよ! それだよ! このテレサヘイズが、他国より抜きん出て住み良い国家だと認識させれば、民は増えていく! これからはの時代、恐怖政治よりも民主政治が基盤になると思うんだ! そう思わないか? ウーグ君」


 「……さっきから、何が言いたいんすか?」


 「だ、か、ら。一般市民にも湯浴みを許可する」


 それを聞くと、ウーグは度肝を抜かれたのか。返す言葉がなかった。


 「僕は考えた! 一般市民にもお湯を解放し、入浴できる様に、大衆浴場の銭湯を作る!」


 「せ、セントー? なんか良く解らないすけど、それは実現可能なんすか?」


 「うむ! 可能だ! 木材も無し! 人件費も無しだ!」


 嗚呼、リリーゼ戦で炎吸収スキルの爆燃者を獲得しておいて良かった。


 あれなら、炎を体内に吸収しまくって、水をお湯に変えられる。あとは火加減だな。これをクリアすれば大衆浴場の銭湯誕生!

 皆も喜んでくれる、良い街が作れそうだ。


 「何だか……理想論の様にも聞こえるっすけど……ところで、リリウヘイズとの同盟は、どうなったっすか!?」


 「ああ、無事に同盟結んだぞ! これで三国同盟が結ばれた! しかも、リリーゼから加護まで貰っちゃったよ!」


 それを聞くとウーグはブクブクと湯船の中に沈んでいった。


 「ブハッ! ぴ、ぴ、ぴ、ピーターさん! どうやってあのリリウヘイズとの同盟が約束されたんですか?」


 「いや、それがさ。いきなり四聖天との戦いになるし、リリーゼの玉座まで連れて行かれたら、今度はリリーゼと戦いになるしで、大変だったけど。全部勝って片付けてきたから、リリーゼに気に入られて、すんなり同盟と加護を貰った!」


 それを聞くと、またもや湯船の中に沈むウーグ。


 「お前は、よく沈むやつだな〜」


 「当たり前っすよ! あの四凶の女帝リリーゼを倒すなんて!」


 「あっ! ごめん。倒したのは四聖天の方で、リリーゼの方は攻撃を無効化させただけだった」


 「それでも充分バケモノ級の強さっす! ピーターさんには逆らわない方が賢明っすね」


 「いやいや。間違った時はビシッと言ってくれた方が助かるから、これからも頼む!」


 「わ、解りました。ところで残りの案件は──」


 「そう! それだよ! 参謀長が欲しいんだ! できれば参謀長補佐も!」


 「まあ、心当たりが無いわけじゃ無いっすけど、元マギアヘイズの奴隷の亜人でして、見た目はネズミの亜人で人に対して恐怖心を持っているというか……」


 マジかよ。ま〜たマギアヘイズの亜人奴隷かよ。この問題もいずれ何とかしないと。


 まあ、奴隷として生まれた者をいきなり、奴隷解放しても、今まで奴隷として生き方しか知らなかった訳だし。ちゃんと自分で働いて生計を立てられるように、普通の生活も教えなくちゃな。


 そう言えばいたっけか。前世の大統領に、選挙活動の為に奴隷の生き方しか知らないで、いきなり奴隷解放しただけで、あとは放ったらかしにした大統領が。


 だから奴隷は解放されても、生活の仕方が解らなくて、また奴隷に戻ったり、暴徒になったりして、余計社会が混乱することになったんだよな。


 同じ轍は踏まない様にしなくては。


 まあ、人間に恐怖心を持っていても、最初はチャームで何とかしよう。それから、チャームを解除して、少しずつ社会に溶け込めればいいさ。


 「大丈夫だ! ウーグが懸念してることは全部解決してやる! それで、そいつは参謀として、どれぐらい優秀なんだ?」


 「何でも、エンジェルヘイムにある参謀訓練学校の参謀試験を独学で学び、参謀訓練学校の入学試験をやらせたら全て正解。しかも、卒業試験までやらせると、それも全て全問正解で参謀訓練学校の教師は唖然としたそうっすけど。ネズミの亜人なんで入学は拒否されたみたいっす」


 「くぅぅぅ〜〜〜!! 勿体無い! エンジェルヘイズの教師はバカか? 無能か?」


 「おまけっすけど、間抜けだと思うっす。っで。ピーターさんは、そのネズミの亜人を参謀長にするつもりっすか?」


 ウーグの質問に二つ返事で答える僕。


 「当たり前だろ!! そんな逸材、探してもまずいないぞ! 今もエンジェルヘイズにいるのか?」


 「いや……今は、エンジェルヘイズに辟易して、このテレサヘイズのリルストの街にいるって噂っす」


 マジかよ〜これは何としてもスカウトするしかない!

 特徴もネズミの亜人だし、すぐに判るだろ!


 「よし! じゃあそのネズミの──えっと、因みに名前は?」


 「ピノネロっす!」


 「そう! ピノネロ君をスカウトするのだ! うわっはっはっは!」


 「あ、あのお〜全裸で立ちながら大笑いするのは、やめて欲しいっす……」


 「おっと、ごめん。つい気分が乗ってしまって」


 よしよしよし! これで優秀な参謀長をゲットできるチャンスが舞い込んできたぞ!


 このチャンス。決して逃してはいけないな。


 そして、僕とウーグは大浴場で長話しをした結果。のぼせてしまい、脱水症状で倒れたのであった。


 何とも間抜けな話だ。エンジェルヘイズの参謀訓練学校の教師をバカにしたが、僕も相当バカだった。

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