第46話 天才ピノネロとの出会い


 果報は寝て待てとは、よく言った者だが──大丈夫かな? ウーグの奴。

 「ピーターさんは参謀会議室で待っていて欲しいっす! 俺っちの情報屋ギルドの力を見せてやるっす」とか何とか言って、行っちゃったけど。


 てか、よくよく見ると、この円卓会議室は思った以上に狭いな。もっと大きな執務室も建造しないとだよ〜。


 やることがあり過ぎて、何から手をつけたら良いものか……ていうか前国王め、国王だったら執務室ぐらい作っておけよ。


 円卓会議室じゃ、どんなに頑張っても10人ぐらいしか入らないぞ。


 しかし、遅いな〜。ネズミの亜人って、そんなに多く無いだろ。もう三時間ぐらいは待ったぞ。


 いかに首都ルストの街が広いからと言って、一般市民が入れる場所は限られているだろ。よし! ここはちょっと見てこよう!


 そして僕はスキルの気配遮断を使い、メイドさんや執事さんや近衛兵に見つからない様に、王宮の外に出た。


 一応は教皇と言う身分である。王宮から勝手に出て市街地を闊歩していたら事件になりかねない。


 市街地を歩く時も、目立たないで歩かなくては──と言うか気配遮断のスキルを使っているから、誰も僕に気が付く人はいない。たとえ教皇の姿をしていてもだ。


 やっぱりスキルって便利だよな。

 っと、そんなことよりも、早くピノネロを探さなくては。


 え〜っと、ネズミの亜人──ネズミの亜人──ネズミの──


 「どうか! どうか後生っす! この通りっす!」


 何だ? 何だ? 人だかりが出来てるぞ。


 僕は、そ〜っと人だかりの中を抜けて、声のする方を見遣るとウーグが、まだ中学生になりたてぐらいの、小さなネズミの亜人に土下座をしていた。


 「だから、何度も言うように。私には荷が重過ぎます。それに私はまだまだ見聞を広めたく──」


 「いやいや! そこを何とか! お願いするっす! 教皇様に大見得をきっちゃったんすよ〜!」


 とうとうウーグが泣き始めた。しかも足にしがみついてやがる。

 泣きしがみ土下座である。


 ここは僕が行けば良いのか? でもこんな人だかりだぞ。もうちょっと様子を見ていよう。


 「本当にしつこい人ですね! 無理って言ったら無理なんです! 私の足から離れてください!」


 「離れないっす! 離したら俺っちの威厳も離れていくっす!」


 いや、最初からウーグに威厳なんてあったか? 有能ではあるが。自分で威厳とか言う所を見ると、あいつ実は威厳があると勘違いしてたのか。


 あっ! とうとうネズミの亜人のピノネロが勝利して、人をかき分ける様に、逃げていくぞ。これはチャンス! きっとウーグから逃げるために人が少ない場所まで逃げるだろう。そこでなら、僕も人が少ないから気配遮断のスキルを解除できる。


 よし追うぞ!


 「まっ! 待ってくれっす〜〜〜〜!!!!」


 うるさいな〜ウーグのやつ。あれが仲間にするための勧誘と呼べるのか?


 なんかピノネロを怖がらせただけじゃないのか? 凄い嫌がってたし。しかしだ、ここで参謀長候補のピノネロを逃すわけには行かない。


 てか、やっぱり裏路地に入ったな。ここは光速疾走のスキルで先回りして──気配遮断解除! そして、偶然ぶつかったふりだ。


 「おっと、痛い痛い。誰かな?」


 「あっ! すいません。変な人に絡まれて逃げていたんです。悪気はないんです!」


 変な人かぁ。うん。あれは変な人だな。


 「そっかぁ。大変だったんだな──」


 『グゥ〜〜〜』ん? なんの音だ? ピノネロからか。はは〜ん腹が空いてるのか。


 「もしよかったら。僕の王宮で食事でもどうかな? これも何かの縁だろ?」


 「王宮……。ああああ! 貴方様は教皇様! 大変なご無礼をお許しください!」


 慌ててたから、気が付かなかったんだな。でもこいつの性格だと絶対拒否してきそうだし──仕方ない。使いたくないが、帝王之魅了の権能の一つ、絶対命令を行使するか


 「そ、そんな! 私のような下賤なネズミの亜人が、教皇様の王宮で食事など! 本来なら教皇様にぶつかっただけでも首を刎ねられて当然なのに、そんな私に寛大なお心遣いをしていただいただけで、大満足です。では私はこれで」


 「ほう、僕の招待を断るのか? それとも王宮の食事は不味くて、自分の口には合わないとでも言いたいのかな?」


 「そ、そんな滅相も──」


 「だったら来なさい!」


 「は、はい!!」


 はぁ……なんか偉そうな態度とってごめん。でも今は参謀長が必要なんだ。許してくれ。


 そして、王宮に戻り、ピノネロと食事をしていると、なぜかエルとアグニスまで来る始末……。


 なんでお前らまでいるんだよ。外で飯を食えるだけの金貨は上げてるだろ?


 「外の飯屋は不味いんですよ! ピーター様!」


 「そうそう、食べられたものじゃないわよ」


 おいアグニス! お前は吸血鬼だろ! だったら血を吸え血を! なに普通に飯食ってんだ! 僕の中での吸血鬼のイメージが下がるだろ!


 「あのお。一つだけ、お伺いしたいのですが、なぜ私の様なものを食事に?」


 交渉タイムか。とは言ってもまだ、絶対命令の権能は発動中なんだけどね。


 「実はだね──」


 その時、王宮の食事室の扉を強く叩く音がした。


 「ピーターさーん……申し訳ないっす……失敗し──って、ええええ! 何でこんな場所で一緒に食事してるっすか! 俺っちはなにも食べてないのに酷いっす!」


 「あっ! あの路上の変な人! これは何の真似ですか? 教皇様!」


 「えっとだね。早い話がキミに国の参謀長に──」


 「だからそれは、お断りしましたよ! この変な人に!」


 怒るのも無理はないか。ピノネロにしてみては、何か裏があってのことだと、勘違いされてしまっている。取り敢えず、変なウーグの素性だけでも教えとくか。


 「キミが変な人と言ってるのは、実はこの街の商人ギルド長兼情報屋ギルド長をしていて、今は僕の頼みで国務大臣を任せているんだ」


 「こ、国務大臣!? この国!? し、失礼しました! でも何でそんな偉い方が、こんな私に国の参謀長になれなどと……」


 困惑しているピノネロを落ち着かせるため、ボイスチャームのスキルも使おう。


 「それは、彼ことウーグ君がキミの才能を見込んでのことだ。聞いたよエンジェルヘイズのことは。本当は参謀になりたいんだろ?」


 「それはまあ、はい。参謀にはなりたいです! ですが、今すぐ国を支える参謀長になれなんて……自分には荷が重過ぎて……」


 「大丈夫! 参謀長と言ってもまだ仮の話だ。キミがどれだけ有能かまずはテストしなくてはね。それでキミの名前は?」


 我ながら、もう知っているのに白々しくなったものだな。


 「ピノネロです!」


 「ピノネロだけかい?」


 「ピノネロだけ……です」


 「では私がピノネロ君に名を与えよう。今日からピノネロ・ブルグンダーと名乗るが良い。ただし、正式に我が国で参謀長になれたらの話だが」


 「ブルグンダー。なんて立派な名前なんでしょうか! このピノネロ! 教皇様の参謀長のテストを、お受けしとうございます!」


 決まりだな。まあテストって言っても、これからのことを相談するだけなんだけど。


 「ずるいっす〜俺っちにもゴハンを〜」


 お前は少し黙ってろ! なにが「情報屋ギルドの力を見せてやるっす!」だ。公衆の面前で泣きしがみ土下座してたくせに。


 でも可哀想なので、ウーグの分の料理もすぐに持ってくる様に、頼む僕であった。

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