第44話 女帝リリーゼとの謁見


 「ここが、リリーゼ様の帝城です。暫く城門の前でお待ちください。それと──母上のライマ様には、リリーゼ様が直々に話したいことがあるそうなので、来てください!」


 「あ、いや。俺には用事が──」


 「ダメです! 来てください!」


 「い、嫌だああああ!! 絶対説教だろおおおお!!」


 そう言って、シャユーと名乗る着物姿の翼亜人に、背中を引っ張られながら、全身ズタボロのライマは王宮内に連れて行かれた。


 しかしだ、ライマの次は僕の番だ。この同盟合戦に勝たねばならない。


 数分後──ズタボロのライマがさらにズタボロになって、シャユーに引きずられてやってきた。まさにボロ雑巾だ……しかも目が白目になって、失神している……。


 「お待たせしました。ではリリーゼ様から謁見の許可が出たので、どうぞこちらへ」


 そして、僕らは帝王の間に連れて行かれ、その玉座に座るリリーゼを見て、僕は愕然とした。


 まさに暴君の中の暴君だと思っていたが、一度見たら忘れようもない褐色の絹のように、美しい肌と容姿。


 それに微風により、艶やかなクセの無い長髪の銀髪が靡いているのは、妖艶の美を醸し出しているとしか言えない。


 さらに美の魔眼とでも言うべきなのか、燦然と黄金に光り輝く瞳は、見るだけで心臓を鷲掴みにされるほどだ。


背丈は他の翼亜人とさほど変わらないが──魅力にも圧があるのだと、初めて実感した。


 この魅力ならチャーム無しでも、魅了されてしまう。

 まさに粉雪のように儚げで妖艶な美女が僕の前の玉座に座っていた。


 加えて、純白の六つの翼と、純白の漢服に近い服装を纏い、首にかけた長い被帛ひはくが肩から両手にかけて、透き通るように純白に──美しく舞っていた、それは間違いなく天女と言わざる負えないほど、リリーゼの美麗を引き立たせている。


 少しの間、言葉が出なかった。が、外交相手が美人過ぎて失敗したなんて、目も当てられない。


 第一声。そう、第一声が勝敗を分ける。


 「拝謁の許可。心から感謝致します。私はテレサヘイズの──」


 「ピーター・ペンドラゴン教皇なのであろう? して、妾に会いにきたのは、マギアヘイズ問題と言ったところ──差し詰め同盟と言ったところか」


 うっ! 全てバレている。

 しかし何だ? この人を和ませる穏やかな声は。


 【伝えます。個体名リリーゼはエクストラスキル、ボイスチャームを行使しています。アルティメットスキル、帝王之魅了の権能の一つ、魅了無効を行使しますか?】


 ああ、YESだ。


 【加えて伝えます。能力複製のスキルにより、ボイスチャームを獲得しました】


 「おや? 妾の声を聞いて魅了されなんだは、貴様が初めてだぞ。そこの従者二人は魅了されているようだがな」


 僕が横を見遣ると、エルもアグニスも何だかフワフワしていた。


 全く、何やってんだよ。二人とも……。

 だが、大義名分ができた。


 「私たちは公平な立場で謁見を望んでいます。しかし、その場でスキルを使い魅了させようとは、いささか無粋ではないですか?」


 「公平な立場か……呵呵! 笑わせるな! 人間! 確かに四聖天を束ねるライマをあそこまで追い込んだ実力、見事である。だがそれ以上の実力を妾に見せよ。それが同等、それが同盟というもの」


 ああ、この脳筋バカが! もう教皇の立ち居振る舞いは終わりだ。僕流で行かせてもらう。


 「確かに。お前の言う通りだよ。リリーゼ。弱い国と同盟したって意味がないからな。じゃあどうする? ここで戦うか?」


 「フッ。やっと化けの皮が剥がれたなタヌキめ。では妾の渾身の一撃。耐えられるか見てやろう」


 すると、リリーゼは玉座から立ち上がると──右手の掌を天高く上げた。


 来るか──どんな攻撃だ?


 「集光気体!」


 何だ? リリーゼが光を纏っているような……。


 「何をボケっとしている! 爆炎之ばくえんの終焉者しゅうえんしゃの権能が一つ! 激灼陽炎げきしゃくようえん! 灰も残さず散るがよい。それとも抗ってみせるか?」


 リリーゼが掲げた右手の掌からは半径15メートルほどの、超ミニチュアサイズの太陽のような火球が具現化された。


 【伝えます。個体名リリーゼの激灼陽炎は、アルティメットスキル爆炎之終焉者の権能の一つで、威力や熱などは太陽と同等の大技です。オーバーラックのスキルの一つ、言語実現の行使を推奨しますが、どうしますか?】


 た、太陽と同じ? もちろんYESに決まってるでしょ!


 「リリーゼの激灼陽炎を掻き消せ! 今すぐに!!」


 すると、ミニチュアサイズの太陽が、なんの痕跡も残さず、瞬時にきえた。


 「何だ? 妾の炎が消えただと……貴様、何をした?」


 「ちょっと、運が良かっただけだよ! その前に! 激灼陽炎は太陽の力を持つ攻撃だろ! 自分の帝城を破壊するつもりだったのか?」


 その言葉を聞くと、リリーゼは大笑いし始めた。


 「よもや激灼陽炎がどのような技なのか知っていようとは。それにあれだけの炎を瞬時に消す力か──気に入った! 貴様と同盟を結んでやろう!」


 マジ? マジで? ていうか、アルティメットスキルに勝つユニークスキルっていったい……。


 【伝えます。能力複製により個体名リリーゼのアルティメットスキルの権能の一つ、激灼陽炎を複製しましたが失敗。代行措置としてユニークスキル、全ての炎属性を吸収し自身のエネルギーに変換する、爆燃者を獲得しました。続けて伝えます。能力複製により、エクストラスキル集光気体を獲得しました】


 あの技、アルティメットスキルだったのか。

 どおりでデタラメに強いわけだよ──だって太陽と同じなんて。


 「その若さで、その力。妾は貴様を気に入ったぞ。ライマにしか授けていないのだが──貴様にも妾の加護を授けてやろう」


 「え? 加護? いいの? 本当に?」


 「ふふふ、妾に二言は無い。近う参れ」


 どうしよう。これで竜の加護の次に、リリーゼからも加護を貰ったよ。ってことはステータスもまた跳ね上がるのかな?


 僕はそんなことを考えながら、恭しくリリーゼの前まで行くと、片膝を突き、頭を下げた。


 「宜しい。では貴様に妾の加護を授ける。受け取れ。それとこれは、妾からの褒美だ、これも受け取れ。せいぜい使いこなして見せよ」


 何だか僕の体が輝き出した。


 【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンは、個体名リリーゼからアルティメットスキル、虚空之加護を授かりました。続けて伝えます、個体名ピーター・ペンドラゴンは、個体名リリーゼからアルティメットスキル、爆炎之終焉者を獲得しました】


 え? 加護は解るけど、加護以外のアルティメットスキルも、他者に与えることができるのか。


 【伝えます。アルティメットスキルの虚空之加護を授かると、自動的にアルティメットスキルの爆炎之終焉者を獲得します】


 何だよ……リリーゼのやつ。僕が知らないからって、「これも授けよう」なんて言って。加護を授かったら自動的に獲得できるんじゃん。


 リリーゼも僕に負けず劣らずタヌキだな。


 でも、これで三国同盟が結ばれたぞ! 無理かと思ったが、何とかなった……しかも奥の手のチャーム無しで。


 そして加護まで手に入ったし、爆炎之終焉者も合わせて、アルティメットスキルを二つもゲットしてしまった。


 これでまた、対マギアヘイズへの戦力が増強したわけだ。


 あとは、本格的な戦争に向けての、参謀長探しだな。



 第4章・完

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