第43話 四聖天を束ねるライマ登場
こんな街中で戦うってことは、国民の人たちにも怪我を負わす危険性がある。
「うらうら! オメーさんから来ねーならこっちか……ら……」
僕の目の前でセーギューが倒れた。
「ヒュ〜危なかったでや。首都を破壊するつもりだでか? こんバカは? リョクイ! お前がいてなんで止めなかった?」
「セーギューが〜暴れ出したら〜オフクロさんのライマさんしか〜止められんでしょ〜?」
「まあ確かにな」
そう言いながら、僕の目の前に立っているのは。美しいが、女とも男とも取れる、何とも中性的な女性だった。名前はライマと言うのか。
そして首には大きな数珠を下げている。翼も四つ。こいつも四聖天なのか? ていうか服装が……浴衣か?
「シャユーに言われて、すっ飛んで来て正解だったでや! んで、お前らは何しに来たでや?」
「あっ、えっっと! ぼ──私たちはテレサヘイズから来ました。私の名前はピーター・ペンドラゴン教皇です」
それを言うと。目を輝かせながら、僕に近寄ってきた。
「んじゃ。お前さんが、あのドラゴンの里を、マギアヘイズから救った英雄だでか! するって〜と、横にいるドラゴンはエルダードラゴンだでな! はぁ〜まさか、そんな英雄さんに会えるなんてな」
意外と知られているようだ。てか、このリリウヘイズは打倒マギアヘイズの意識が強いから、マギアヘイズ関連の情報はすぐに飛んでくるんだな。
その前に、何でエルがドラゴンのままなんだよ。首都に到着したら、すぐに擬人化しろって言っておけばよかった。
もう遅いけど……。
「記念だで! 握手してくれ!」
言われるがままに握手したが──意外と握力が強い。軽くリンゴ──いや、ヤシの実を潰せそうな握力をしている。
「ライマさ〜ん。本題を〜忘れちゃ〜いやせんか〜?」
「おお! そうだったでや! お前さんらは、こんな翼亜人以外入れない場所に、何をしにきたんだ?」
「実は、マギアヘイズを倒すために、リリウヘイズと同盟を結びにきました」
そう言うと、ライマは渋い顔をして、言い放った。
「まあ、同盟を結びたい気持ちはわかるでや。でも──無理だ! リリウヘイズはマギアヘイズを単独で倒す! 下手に同盟なんて結んで足を引っ張られても困るでな!」
「足を引っ張る……?」
その言葉に僕は、少し頭にきた。
いくらリリウヘイズが強くても、少しぐらいは話を聞いてくれてもいいだろうに。それを頭ごなしに否定されるのは、非常に不愉快だ。
「ほぉ〜。さっきよりもオーラの総量が増えたでや。怒らして、しまったでか。ならその力、俺に試すか?」
落ち着け落ち着け。戦うために来たんじゃない!
これは政治外交だ。力技でねじ伏せるのは、侵略行為だろ。
だが、ライマはやる気だ。さっきまで飄々としていた顔に殺意がこもっているのが解る。
僕が臨戦態勢の構えを取る前に──すでにライマは僕の懐に入っていた。
「呵呵! 行くでや!
「──
あ、危なかった。今の技は直撃していたら、かなりの大ダメージだったぞ。
【伝えます。オーバーラックのスキルの一つ、能力複製により、個体名ライマ・テンジンモンのサージスキル、波動雷掌を獲得しました】
覚えたのはいいけど、サージスキルだったのか。どおりで、あれだけのパワーとスピードがあるわけだ。リョクイのどんな攻撃からも逃げられる光雷脱兎のスキルを複製しておいてよかった。
まあ、自動複製だけど。
「おったまげたな! まさかリョクイの他に、光雷脱兎のスキルが使えるやつがいるとは! やっぱり英雄の名は伊達じゃないだでな!」
「おい! その前に、こんなに人がたくさんいる所で、暴れたら──」
「……? 暴れたら何だでや?」
僕が周りを見遣ると、闘技場のサークルのようになり、その中に僕とライマがいた。
周りは観客になっている。さすが戦闘狂の翼亜人だ。国民も戦いに飢えているってわけか。
それじゃあ、巻き添えくらうのは、自業自得だよな!
「ピーター様! 私たちも加勢を!」
「いや、エルもアグニスも加勢しないでくれ! こいつは僕とライマとの喧嘩だ! そのカチコチに固まった頭をほぐしてやるよ! ドラゴンシャウト!」
超圧縮された音圧と風圧が、ライマ目掛けて食らいつく。
「こいつは! スゲー! 久々に体が熱くなってきたでや!
ライマに浴びせたはずのドラゴンシャウトは、ライマに当たらず、観客に当たり、観客達が吹っ飛んだ。
ではライマは? 上? いや右? なんて速さだ。これ光速を超えてないか?
「よそ見は厳禁だで! 波動雷掌!」
「グハッ! チッ、腹部に、ライマの光速をも超えるスピードで放たれた掌底を、もろに腹部に食らっちまったな……内臓がやられたか……息が苦しい……」
それに、あの雷が直撃して、腹部を通り抜けていったような、途轍もなく熱く痺れる感覚はなんだ……?
だが、とにかく今は……体を何とかしないと……。
大宮殿さん……何か治す方法はある……?
【答えます。アルティメットスキル、治癒之大精霊の権能の一つ、超速再生を使えば、肉体の全ての部位を瞬時に元に戻せます。この権能を行使しますか?】
もちろん……YESだ!
【続けて伝えます。個体名ライマ・テンジンモンのサージスキル、波動縮地を能力複製で獲得しました】
よし。体は元に戻った。あいつには、近接戦闘の方が向いてるみたいだ。だったら……こいつをお見舞いしてやる!
「今覚えたばかりの縮地無双だ!」
「んな! お前さん! 見ただけで、相手のスキルが使えるだでか?」
今はライマの問いに答えている余裕はない!
そして、ライマの懐に入り、あの技だ!
「食らえ! 真祖之爪と竜爪牙のダブル近接攻撃技だ!」
鋼のように固く、だがしなやかな吸血鬼の爪の技で、まずは動きを封じ、トドメは硬い竜の鱗も引き裂く竜爪牙だ!
「ヌウ、ググぅ。中々やるだで。もうこなったら、お互いが死ぬまで、とことんやるでや!!」
体中から血飛沫を撒き散らしながら、まるで竜の雄叫びのように、大声で吼えるライマ──だったが。
「そこまでです! 母上! リリーゼ様が呼んでいます! そこの者たちも一緒にとのことです」
見ると、翼亜人にしては一回り小さい体躯で──着物を着て、ソロバンを持った四つの羽を持つ女性が僕とライマの喧嘩と言う名の戦いに、割って入ってきた。
「おいシャユー! これからが面白くなるとこだでや!」
「何言ってるんですか! 体中ボロボロになって! それにリリーゼ様の命令は絶対です! 早く来てください!」
ライマはごねているが──命令に従った。
「さあ。貴方たちも早く来てください!」
ライマも黙らせる絶対権力者。やっぱりこの国は絶対君主制だったな。
だったら、リリーゼさえYESと言えば、全ての国民が従うわけだ。
頼むから、いきなり第二ラウンドとか言って、今度はリリーゼと戦うことには、ならないでくれよ……!
さて、ここからが、本当の意味での外交戦闘の始まりだ。
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