第32話 第三階層の幻獣


 何かいる。それだけは判るんだが──というか、今更だけどアグニスが言っていた、シジュウシキって何だ?


 【伝えます。団体名・四獣四鬼しじゅうしきは、2000年前の魔王が従えていた魔獣と魔人であり。個々が自由行動を認められていたので、勇者が現れ討伐されるまで恐怖の対象として、畏怖されていた存在です】


 そっか、そんなに怖かったのか。四獣四鬼ねえ──って! これじゃあ完全に魔王の国じゃないか! 宗教国家を作るんだろ? 魔物の国家を作るわけじゃないんだぞ?


 【伝えます。個体名ウーグ・ドースの提案である伝説級の魔獣や魔人を従える事は、各国に対して、極めて単純かつ有効な牽制手段と断定します。残る問題は人間と共存できるかだけです】


 そう! それだよ!


 僕はいいけど、他の人たちは魅了のスキルを持ってないから、本当に大丈夫なのか、不安になってきたんだよなぁ。


 【伝えます。それに関しては問題ありません。帝王之魅了の権能の一つ、絶対命令があるので、魅了状態のものは命令すれば、その命令に従います】


 何だ、良かった。いきなり人間を食い殺すなんて、国家を作る前に、国家が無くなっちゃうからね。それに僕は、どうせ国を作るなら、皆が笑って平和に暮らせる宗教国家を作る予定なんだよ。


 飢えや飢饉に苦しんだり、いつも他国の脅威に怯えるなんて国は、絶対に作るつもりはないからな。



 しかし、さっきから馬の嘶きが聞こえるんだけど──しかも地面が、スタンガンのようにバチバチしてるぞ。これはまさか……。


 「人間よ。我に何用か?」


 でたでた出ました! イクシオンだ!


 鋭い大剣のような角を生やした一角獣──まさに巨大な雷の天馬だ!!


 「何用かと──うむううう……」


 何だ? 元気が無いのか?


 【伝えます。個体名イクシオンは現在空腹のようです。雷のような電撃を与えれば、空腹が治ります。ユニークスキル、呪万雷の行使を推奨します】


 いや、でもあの技って黒雷だろ? しかも呪われた雷だし……大丈夫なのか?


 【伝えます。問題ありません。さらに伝えます。個体名イクシオンは伝説級の魔獣です。従えている従魔は特別級魔獣クアールです】


 問題なしか。解った! ってかクアールを従魔にしてるのか。石化攻撃やら麻痺攻撃が得意なあの黒豹みたいなクアールか。いいねいいね! 是非仲間にしたい。そんじゃあ、いっちょやりますか!


 「エル! アグニス! ちょっと離れていてくれ! 今から雷を降らすから!」


 「ピーター様……ダンジョンに入ってから、私の活躍がないのだが」


 うわ! なんかエルのやつメチャメチャ落ち込んでる。


 だよなぁ……魅了して、国作りの為の仲間募集の勧誘に来たんだけど、はっきり言って、エルもアグニスも見てるだけだもんな……。


 まあアグニスは元大貴族の令嬢だから、何もしない方が、楽って感じに見えるけど──エルの場合は違うのか。


 「解った! じゃあエルに訊きたいんだけど、エルは雷系のスキルを持っているか?」


 「当たり前だ! サンダーブレスを持っているぞ!」


 サンダーブレスか……空腹に効き目あるのかな?


 【伝えます。個体名エルダードラゴンのサンダーブレスは、呪万雷よりも劣りますが、個体名イクシオンの空腹には有効です】


 そっか、解った!


 「じゃあエルに頼み事がある! あのイクシオンに思いっきり、サンダーブレスを吐いてくれ!」


 「解ったぞ! サンダーブレス!」


 エルが牙を剥き出し大口を開くと、紫電を纏った雷光がエルの大口から放たれる。と、同時に暗い洞窟内は眩いばかりの閃光に包まれた。

 うお! 思ってたよりも凄いな、雷の余波というか、ビリビリが洞窟全体を覆って通電している。


 【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンは能力複製のスキルにより、エクストラスキル、サンダーブレスを獲得しました】


 なんか見るだけで、相手のスキル覚えちゃうとか、盗んでるみたいで嫌だけど、とにかくサンダーブレスもゲットしたぞ!


 「す、すまぬな。この洞窟にシヴァがいることで、クアールたちが逃げて、我の食事である雷撃がなくなっていたのだ。助かった礼を言うぞ。ドラゴンよ」


 「いや〜そんなことも、あるかな〜」


 エルのやつ照れちゃって。しかもドラゴン口調じゃないから、少し可愛いじゃないか。


 「それでヌシらは、何用でこんな場所まで来たのだ?」


 そうだ! 早く仲間にしないと。


 「あのう、単刀直入にいうと、僕は今、国を作ろうとしてるんだけど、その為に強い魔獣が必要なんだ! 僕の仲間になって、一緒に国を作って欲しい。あと、出来ればクアールたちも連れてきて欲しい!」


 「何だそんなことか。容易いことだ──して、その国はどこに?」


 ま〜たこの流れだ。流石に疲れてきた。


 しかし、伝えなくては意味がない。

 僕は国の場所と、待機していて欲しい街の名を言うと、イクシオンは承諾してくれた。


 と言うか、仲間になった。そして、従魔のクアール1000匹も連れて待機していてもらう約束をした。


 正直、初めは100匹ぐらいかと思ったが、イクシオンの口から1000匹と言われた時は、かなり驚いた。


 伝説級や神代級の魔獣や魔人だけでも、他国の牽制になるのに、まさか特別級の魔獣がこんなにたくさん──もう魔物の国と化しているぞ……。


 だが、これもマギアヘイズや、敵対してはいないが、各国に対しての牽制に繋がる。魔獣や魔人は多ければ多い方がいいのだ。


 そして、イクシオンは従魔のクアールを連れて、奔り去って行った。


 よし、次は第四階層だ。残るは魔人二人。


 気合い入れてタラシこむぞ!

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