第10話 ドラゴンオーブと、里の掟


 エンシェントドラゴンから貸して貰った、プラチナオーブに両手を翳す──前にだ。


 周りのドラゴンが鬱陶しいです。近くに来て覗かないで下さい! 

 多分、ドラゴンチャームの効果もあるのだと思うけど、もう数千年以上プラチナオーブで、ステータスを鑑定したものがいない珍しさもあるのだろう。

 それに本来なら、氷の大山脈でドラゴンと戦いながら、何とか氷の大山脈の真ん中にひっそりとあるドラゴンの里、そこは険しい氷山とは無縁のドラゴンの楽園だ。そんな場所に、楽々と侵入──いや訪問してしまい、何だか嬉しさ半分、後ろめたさ半分だ。別に悪いことをしている訳ではないけれど。伝説の勇者さんはきっと、頑張ってこの氷山を登ったんだろうな……。


 そして、ただ一つ言っておきますけど、僕のステータスが凄いのは、あくまで幸運の能力値だけだからね? そこんとこ解って……無いよな。


 「ん? どうした? 両手を翳さないのか?」


 「あ、いや、今翳そうと思って、少し瞑想を……」


 何とも我ながら酷い言い訳だな。


 よし。気分を入れ直して、プラチナオーブに両手を翳した。


 すると──出ましたけどこれは……。



 ————————————

 LV:4

 JOB:無し

 HP(体力):4

 MP(魔力):1

 STM (持久力):3

 STR(筋力):2

 DEX(器用):4

 AGI(敏捷):5

 TEC(技量):4

 VIT(耐久力):1

 LUC(幸運):99999


 スキル

 ・モンスターチャーム


 ユニークスキル

 ・ドラゴンチャーム

 ・オーバーラック

 ・記憶の大宮殿

 ————————————



 どひゃあああ!! 幸運の能力値が99999ってカンストしてんじゃん。


 そして、プラチナオーブにヒビが入り割れてしまった。


 すいません。すいません。ドラゴンさん!

 悪気はないんです!


 「な、何と! 今まで壊れたことが無かったプラチナオーブが! それに、汝よ。まさか我でも知らぬユニークスキル・オーバーラックと記憶の大宮殿を獲得しているとは」


 何だかさっきまで、厳かな雰囲気だったのに、急に目を白黒させて慌てるエンシェントドラゴンが可愛く見えてきた。

 おっと、いかんいかん。早くルストの鑑定ギルドでこのことを報告しないと。ついでに伝書鳩──伝書ドラゴン? まあいいや、伝書鳩がいたらルストまで鑑定結果を届けてもらおう。

 嘘だと思われた嫌だし。


 しかし、エンシェントドラゴンでも、ユニークスキルのオーバーラックと記憶の大宮殿は知らないのか。


 【伝えます。ユニークスキルネーム・オーバーラック・記憶の大宮殿は、個体名エンシェントドラゴンがこの世に生まれる以前の神代のスキルなので、エンシェントドラゴンが認知することは不可能なユニークスキルです】


 ほえ〜神代って言ったら神様の時代だろ……そんなに凄いスキルだったのか……。


 【ふふん……!】


 あっ! 今、大宮殿さんが胸を張って鼻で笑ったような……。


 【胸も張ってませんし、鼻で笑ってもいません】


 本当かな……?


 【断固! ありません!】


 わ、解ったよ。ちょっと、ふざけただけじゃん。おっと、その前にだ。

 


 「あ、あのお、それじゃあ僕はルストの街に戻りますので、もし出来れば、鑑定結果を伝書鳩か何かでお伝えして欲しく……」


 そうしないと金貨100枚が入らないからね。


 「伝書鳩? 久しく聞かなかった名だが、伝書鳩ならおるぞ。鑑定結果をルストの街までだな。うむ解った。して、汝よ。我は決めたぞ。歴代の勇者や英雄でさえ、プラチナオーブの鑑定数値を越える者はおらなんだ。気に入った! これは我と汝の波濤万里の出会いやも知れぬ。もし時間があるならば、鑑定数値が999999のドラゴンオーブを我が造り鑑定させてはくれまいか? それまで、旅でもすると良いぞ。どうだ?」


 鑑定数値が999999って、99万9999ですか!?

 でも造るって言ってもドラゴンの寿命と人間の寿命じゃなあ。


 【伝えます。ドラゴンオーブを製作するには、およそ人間の寿命で10年程です】


 何だ、その程度か、なら大丈夫だな。


 「解りました。では是非、ドラゴンオーブで鑑定させて下さい!」


 その言葉を聞くとエンシェントドラゴンは厳かに微笑み言った。


 「うむ。ではドラゴンオーブができるまで、仲間と一緒に……ん? 汝よ仲間がおらぬのか?」


 なんか、「お前友達いないのか?」みたいな感じで言われて、少し悲しい気持ちになったけど……いませんよ。ああ! いませんとも! それが何か?


 【知らせます。個体名ピーターは、精神状態が不安定になり現在興奮しています。深呼吸をすることを提案します】


 うるっさいな! 解ってるよ。もう大丈夫だから。


 「では、この里のドラゴンを1匹だけ仲間にすると言うのはどうだ? 一人旅はつまらぬだろう?」


 「え? 本当にドラゴンを仲間にしてもいいんですか?」


 「うむ。好きなドラゴンを選ぶと良い。しかし、このドラゴンの里の掟がある。それは、好きなドラゴンと闘って勝つことだ。ドラゴンは気高い種族ゆえ自分よりも弱き物には従わぬ。そして第二の掟にドラゴンチャームのユニークスキルは闘う時だけ解除してもらいたい。解除せねば、全てのドラゴンの里にいるドラゴンたちが、こぞって汝の仲間になりたいと言ってくるからな」


 なるほど。理屈は解った──けど、今の僕の力で果たして勝てるのだろうか?


 【伝えます。オーバーラックのスキルの一つ、言語実現の発動を推奨します】


 言語実現? 何そのスキル。


 【伝えます。言語実現とは、自分の放った言語が実現するスキルです】


 ああ、それなら勝てそうかな?


 【知らせます。私が推奨しているのですから。必ず勝てます】


 はいはい解りましたよ。


 「どうする? ドラゴンの掟に従い、我が里のドラゴンを仲間にするか?」


 「ええ。しますとも」


 「あい解った! では好きなドラゴンを選ぶと良い! 我は汝がまたこの里に戻ってくるまでに──はっ!? 我としていたことがすっかり忘れていた。汝の名をまだ訊いていなかった」


 この流れ二度目だな……。やっぱオーブが壊れるって相当驚くことなのかな?


 「ピーターです。今は訳あってただのピーターです」


 そう言うと、エンシェントドラゴンは暫しの間、思案し言い放った。


 「そうか……では! 我が汝の名付けになってやろう。今日からは、ピーター・ペンドラゴンと名乗るが良い。そして、汝に我が竜の加護を授けよう」


 何だか、僕の胸部が熱い。


 見ると、僕の胸部にはドラゴンの頭の刺青が刻み込まれていた。


 「これで、加護も授けた。もう一度、プラチナオーブで鑑定するか? この里はプラチナ鉱石の山だから、プラチナオーブはたくさんあるのだ」


 「じゃ、じゃあ是非!」


 さてさて、ドラゴンとのバトルの前に、第二回目の鑑定が始まるぞ。

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