第8話 ワイバーンの群れと遭遇


 「お、お待たせしました!」


 肩で息を切りながら、犬のおっちゃん──元い、ルストの鑑定所ギルドの鑑定士さんが、ドラゴンの里まで行く為の従者を、冒険者ギルドまで行って掻き集めてくれた。


 ふむふむこれは──まるでRPGゲームのパーティーのようだな。


 筋骨隆々の鎧を纏った男戦士さんに、かなり老齢のスタッフを持った男魔法使い、最後に尼僧姿の女僧侶さんか。


 「全員冒険者ランクはCでございます!」


 まあCならそこそこ──って! これからドラゴンの里に行くんだよ!?

 大丈夫なのかな? 不安になってきたぞ。


 というか、早くジョブ神殿に行って、適性ジョブになりたい。ギャンブラーだから期待はしていないが、そこそこのスキルは獲得できるだろ。


 【お伝えします。ギャンブラーのジョブは他のジョブと違い、多種多様なスキルがあります】


 ほらみろ。やっぱり使えるかもしれないぞ。


 【さらに伝えます。多種多様なスキルはどれも戦闘向きではなく、戦闘に使えるスキルは殆どありません】


 一言多いんだよ! せっかく嬉しくなってたのに!


 しかし、みんな無言だな。まるで石像みたいだ。というか、これから行く場所知ってるのか? ちゃんと犬のおっちゃんは伝えたんだろうか……最先が不安しかないって何?


 「あ、あのを。皆さんはこれからどこに向かうか、知ってますよね?」


 さりげなく探りを入れなくては。

 すると、三人とも首を横に振った──と言うか震えてる? なぜに?


 「えっと、これから向かうのは北の大山脈にあるドラゴンの──」


 あっ! めっちゃ震えてる。ここは嘘も方便で押し切るか。


 「そ、そう。ドラゴンの里をチラっと覗きに行くだけの簡単な旅です」


 すると、さっきまでの震えが止まり、三人とも大きく息を吐いた。きっと大金に目が眩んで参加したけど、後になって後悔したパターンだな。


 まあ僕が言えたことじゃ無いけど。


 さてと、緊張の糸も解れた所で出発しますか。


 そして僕とその他三人の四人パーティーでルストの大都市を出て一時間ほどである。なんと、僕が助けた、あの怪我だらけのケルベロスとまた遭遇した。


 「お、おい! ここは危ないぞ! お前、大剣を持った赤髪の剣士にやられたんだろ? 早く逃げろよ!」


 「いやまあ、そのあれだ、貴様の匂いがしたもので、別れの挨拶をと」


 魔物なのになんか律儀なやつだな〜。


 【説明します。固有スキル・モンスターチャームが常時発動しているので、このケルベロスは遠くから疾風の如く駆け付けた模様です】


 何だよ、僕に会いにきたんじゃなくて、スキルの効果か。

 そうだそうだ、一時いっときとは言え、三人の仲間を紹介しておこう。


 「お前に、紹介するよ! 僕の後ろにいる三人は──」


 「ん? おい待て。三人だと? お前一人しかおらぬではないか」


 え? 僕が後ろを振り返ると、従者三人は蜘蛛の子を散らすように、逃げていた。ちょ、おい! 待てこらあああ!!


 うーむ、まあいきなりCランクの冒険者がケルベロスを見たら、そりゃ逃げるか。アランもSランクのクエストだとか何とか言ってたし。


 でも僕が普通に会話しているのに、いきなり逃げるか?


 【説明します。個体名ケルベロスのユニークスキル、地獄の威圧が発動し、逃亡したと思われます。尚、この地獄の威圧は、個体名ピーターにはモンスターチャームの効果で発動されません】


 はあ、それでさっきまで周囲にいた、魔物たちまで一目散に逃げたのか。


 「所で貴様。何処かに行くのか?」


 「ああ。ドラゴンの里にな」


 「ど、ど、ドラゴンの里だとおおお!!」


 何で驚いてるんだ?


 【説明します。個体名ケルベロスは上位種の魔物ですが、竜種には敵いません。なのでドラゴンの里に行くと言った発言に驚いている模様です】


 ケルベロスでもドラゴンには勝てないってことか。そんなに強いのかドラゴンって。


 「我でよければ、また背中に乗せてやろうと思ったが……ドラゴンの里か……」


 「あっ! でもドラゴンの里は北の大山脈にあるんだ。そこまで乗せくれないか?」


 「何? 北の大山脈までで良いのか? ならばお安いご用だ! さあ乗れ!」


 そう言って、また僕の背中を噛んで空中高く飛ばすと、そのままケルベロスの背中に無事着地した。


 おお! は、早いけど! やっぱり慣れないな! 飛ばされそうだ!


 ────数時間後────


 「着いたぞ! ここが北の大山脈だ! で、では我はここで帰るからな、精々生き延びるのだぞ!」


 そして、凄い速さ、と言うか、あれは逃げている速さだな。そんなに怖いのかね〜ドラゴンって。


 【伝えます。個体名ドラゴンにも様々な種類がいますが、最も下位のドラゴンでも、大都市一つを破壊するほどの力を持っています。そして、もし歩いて北の大山脈に向かうとしたら二十日はかかっていました】


 ほえ〜ドラゴンってそんなに強いの? ん? てか今、歩いたら二十日って言ったよね? そんなにかかるの?


 まあ、地図を渡されて、その地図を見てなかった僕も悪いが。つーか北の大山脈だけあって、氷の剣山みたいな山脈だな。道も無いし、どうやって進むか……。


 その時である。


 【報告します。急接近で個体名ワイバーンの群れが近づいてきます】


 そんなの大宮殿さんに言われなくても、上空を見れば分かるよ!


 そして、群れの中でも、一番大きなワイバーンが僕の前に立ち塞がった。こいつが群れのリーダーなのか?

 他のワイバーンは上空で羽をバタつかせて、僕を見ている。

 どうしよう……食べられちゃうのかな? 大宮殿さん! どうしたらいいの?


 【報告します。個体名ピーターは食べられません。ユニークスキル・ドラゴンチャームの効果でワイバーンの群れは、魅了されています】


 魅了? それってどう言う──意味なのか訊こうと思った矢先に、目の前に立ち塞がる、ワイバーンが、頭を下げた。


 「我の背に乗れ」


 え? ドラゴンが喋った!


 【説明します。竜種は非常に頭が良く、全ての竜種が人語を話せます。そして、ユニークスキル・ドラゴンチャームの効果により、目の前のワイバーンは、個体名ピーターに好かれようとしています】


 何だかよくわからないけど、これってラッキーなのか?


 「なあ? 一つ頼みがあるんだけど。僕をドラゴンの里まで連れて行ってくれないか?」


 「容易いことだ人間。我々の里に行きたいのだな? では我の背に乗れ人間」


 そして、言われるがまま、首を下げたワイバーンの背中に乗ると、ワイバーンは力強く首を擡げて耳を塞ぎたくなるほどの大きな咆哮を上げて、両翼を広げ天高く、僕を背に乗せ飛び立った。


 どうやってドラゴンの里まで行けば悩んでいたが、これなら早くドラゴンの里まで行けそうだ。


 と言うか、これもユニークスキルのオーバーラックの豪運のおかげなのだろう。

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