第4話 剣聖vs豪運


 アランは僕が言うのもなんだが、良い奴だと思う。


 急にどうしたかって?


 だって文無しの僕に、お昼ご飯をご馳走してくれたからだ。


 ま、まあ。なぜか知らないが強い奴と戦いたいって雰囲気が、凄く伝わって来る圧だけは、やめて欲しいが。


 痛いぐらい圧が伝わってくるから、やめて欲しいが。


 別に殴られてないけど、本当にアランの圧は凄い。


 だが不思議なことが一つだけ──食事中にジロジロ僕を見て来たことだ。

 そっちの気は無いと思いたいが。

 てか、あったとしても、これから何も始まらないからね!


 「ピーター君。キミに一つ質問があるんだけど──君は犬は好きかい?」


 突然なにを言っているのだ? 


 「いや別に、犬は特に好きじゃ無いかな」


 「ふ〜ん。じゃあなんで、ずっと君から、ケルベロスの匂いがしているんだろうね? ケルベロスは擬人化できる種族の魔物ではないはず、なのにキミからはずっとしているんだよ。ケルベロスの匂いが。ピーター君」


 ちょ、待って。怖い怖い怖い!


 アランの声色がどんどん落ちていく、それは脅しに近く、威嚇に近い。


 「腹も膨れたことだし。私と一つ手合わせしてくれないかな? これは、お願いじゃないよ。ピーター君がその気じゃなくても、僕はこの大剣を振るうし。手加減もしようとは思わない」


 ちょ、待って。嫌だ嫌だ嫌だ!


 アランって剣聖なんでしょ? 絶対強いじゃん!


 僕ってギャンブラーなんでしょ? 絶対弱いじゃん!


 「見たところ、剣もロッドも持っていないから、暗器使いのアサシンかな?」


 言うなりアランは背中に背負っている大剣を抜くと、佩刀のような姿になり、大剣を腰に据えて構えを取った。


 僕はてっきり青眼の構えかと思ったら、まさかの居合の構えである。


 そのまま下からの逆袈裟斬りを狙っているのか?

 どちらにせよ、非常にヤバイ事態である。


 「さあ、こないならこっちから行くよ!」


 やはり狙いは逆袈裟斬りか! 僕は腰が抜けて、アランが大剣を振るう瞬間にズッコケた。


 そして、コケた時に、右足の靴の先がピーンと伸びて、アランの額のこめかみにクリーンヒットしたのだ。


 アランのこめかみから、少しだけ血が滴り落ちる。


 「やっぱり、その身動き、ピーター君はやるねえ。うん、多分だけどジョブはアサシンかな?」


 そう言うと、アランは大剣を天高く上段に構え、僕を一刀両断する姿になった。


 嗚呼、ダメだ、おしまいだ、殺される……。


 だが、あの時だ、そうケルベロスの傷を治した時の事を思い出せ!

 僕のジョブはギャンブラー! まだ神殿でギャンブラーのジョブにはなってないけど、固有スキルならあるぞ!


 また賭けに出るしかない!


 僕は何故か、右手をブンブン振り回しながら言った。


 「アランの大剣よ粉々になれ!」


 傍から見たらただのマヌケである。しかし何か技みたいな動作が欲しかったから……つい。


 だが、僕は賭けに勝った。


 なぜなら──鉄にヒビが入る音がして、アランの大剣は粉々に砕け散ったからだ。


 アランですら何が起こったか分からない。ただ、柄だけ残し、大剣が目の前で、言葉通りに粉々になったのだ。


 これにはアランも驚いたのか、呵々大笑して僕の首の後ろに腕を回してきた。


 「負けたよピーター君。剣も無い剣士なんていないからね」


 「あの、それよりも、高そうな大剣を壊してしまって……今、一文無しで弁償できないんですけど」


 「ああ! それなら大丈夫! コイツも大分ガタが来てたから、新しい大剣を新調しようと思っていたんだよ!」


 ふう、危なかった。弁償せーや! このガキャーとか言われたら、どうしようかと思ったよ。


 「と、こ、ろ、で。ピーター君はこれから鑑定しにギルドに行くんだろ?」


 「ええ、まあ」


 「よっし、じゃあ行こうか」


 え? さっきの話し冗談じゃなかったの?

 まじで来るの?

 来てどうするの? 

 また闘うの?


 どちらにせよ、逃げられないのは確定してしまった。


 ええい! もうこうなったら、鬼が出るか蛇が出るかだ!


 「解りました。じゃあ行きましょうか……」


 もうどうなっても知らん!

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