第3話 いきなりケルベロス襲来

 そして、馬車に乗ること五時間──馬車が転倒しました。


 いや、なんでや!


 その前に痛いなぁー! 全身打撲だぞ。


 「ちょっと御者さん! 何やって……え?」


 馬車から出ると、全身傷ついた巨大なケルベロスが御者さんを食っていた。


 おい、なんだよ? ケルベロスが出るなんて聞いてないぞ。


 「ダメだ! 人間一人だけでは、体を治癒できぬ。貴様の血肉も食うとしよう!」


 モンスターなのに喋った! いや、上位クラスの魔物は人語が話せるのか?


 しかし、この広大なガルズの大陸でケルベロスなんて、見つける方が大変──うわ!


 急に襲って来やがった!


 全身打撲で前屈みだったから、スレスレで前足の鉤爪攻撃から避けられたけど、当たってたらお陀仏だった。


 「ぐぬあ! はぁはぁ力が……」


 よく見ると、腹にとても深い大剣で両断されたように見える、大怪我をしている。これでは立っているのもやっとだろう。


 こうなったら、一か八かだ!

 僕はギャンブラーなんだから!


 「お、おい。お前。その大怪我を治したら僕を食わないと約束しろ!」


 「ふん。人間風情がいきがりおって。だがその申し出、受けよう。だが出来ない時は──」


 「解ってる! 僕を食え! ────このケルベロスの大怪我を今すぐ治せ!」


 僕がそういうと、ケルベロスの肉体は見る見る内に回復し、体中が治癒した。


 「ほう。人間。貴様は上位のヒーラーか?」


 「いや、まあそんなとこ」


 違うけど、そういうことにしておこう。


 「ところで貴様、馬車に乗っていたが、どこかに向かう途中であった?」


 「え? ルストって街だけど」


 「ほう。あそこななら、我の背に乗れば数時間で着くぞ。乗って行くか?」


 え? まじ? ラッキー!


 「の、乗るよ。でも安全運転で頼むよ!」


 「安心しろ」


 そう言って、ケルベロスは僕の背中の服を噛むと、ヒョイと空中に投げ、自分の背中に乗せた。


 おお! 案外モフモフじゃん! これなら快適なアアアアアアアアアアア!!!!


 ────数時間後


 「はぁはぁ死ぬかと思ったぞ! 安全運転って言ったろ! 早すぎるんだよ!」


 「これでも大分ペースは落としたはずだが──その前に、我はこれ以上ルストの近くには行けぬ。大騒ぎになるからな」


 そっか、いきなりケルベロスが現れたら大騒ぎだもんな〜。


 まあ、もうルストの街は見えてるし、ここから歩いて30分ぐらいだろう。


 「解った! 乗せてくれてありがとう!」


 「まさか人間に礼を言われる日が来るとはな!」


 そう言って、ケルベロスは僕の前から去って行った。


 よし! じゃあルストの街に行きますか!


 それにしても、でかい街だな。


 遠くから見ても要塞都市みたいだぞ。


 そして、しばらく歩いたところで、街の門の前に着いた。


 それじゃあ、いざ!


 「おっと! 待ちな待ちな! ギルド通行許可証を見せろ!」


 え? 何それ? しかもこの厳つい鎧姿のおっちゃん、結構怖いです。


 つーか、あの女鑑定士いいい!! 通行許可証が必要なんて言って無かったぞ!


 「なんだよ、兄ちゃん許可証がねーのか。じゃあ入場料銀貨10枚だ!」


 入場料って、遊園地じゃないんだから、まあ僕には金貨30枚が──30枚が──30枚無いいいいいいい!!


 あっそうだ! 馬車が転倒した時に落としたんだ!


 それかケルベロスの背中に乗って猛スピードで走ってる時に落としたか……てかどっちでもいいよ! 大事なのは今! 文無しです……。


 「なんか兄ちゃん怪しいな。最近じゃ隣国とあまり良い噂聞かねーからな。間者じゃ無いだろうな? ちょっと牢獄まで来てもらう!」


 え? 嫌だよおおお!! なんで牢獄なのおおお!!


 「その人なら私の友人だから、一緒に通してもらおうか」


 その声に、威嚇するような態度で衛兵のおっちゃんが振り向くと、急に態度を一変させた。


 「こここ、これは剣聖アラン・サンドロス様ではありませぬか! お知り合いに大変な失礼をしてしまい申し訳ございません!」


 「いいよいいよ、謝らなくて。ほら! 早く行こう」


 なんだか知らないが、背中に大剣を背負った赤髪のお兄さんが助けてくれた。


 しかも中々、眉目秀麗な剣士だ。

 羨ましい。


 僕も悪い顔では無いけど、中の上ぐらいかな?

 その前に、お礼を言わないと。


 「あ、あのお。アラン・サンドロスさん。ありがとうございました」


 「ん? 畏まらなくて良いよ。アランって呼んでくれ」


 「は、はあ」


 「ところで、君……この変で、はぐれケルベロスに合わなかった? S級クエストは誰もやりたがらないから、いつも私が頼まれるのだよ」


 あれ? これは本当の事を言った方が──というか、さっきよりも声のトーンが低くなって怖いんですけど。


 しかも、あの大剣。きっとあの傷は、あの大剣で斬られたのだろう。


 ここまで数時間で送ってくれたお礼だ。ケルベロスの奴、感謝しろよな!


 「いや。見てないです」


 そういうと、太陽のように光り輝く笑顔でアランは言った。


 「だよね。もし見ていたら、傷だらけでも食われていただろうし」


 「ハハハ……そうですね……」


 うおおお! なんだこのギャップ! 凄く怖い。


 「ところで、君の名前を教えてよ!」


 「ピーターです」


 「ただのピーター?」


 もうギュスターブ家は追放されたからな……今はただのピーターなんだよ。


 「そうです……ピーターだけです」


 「変わってるね。ところでピーター君。このルストの街には一体なんで来たの?」


 「ああ、それはなんか、リスタの水晶玉だと、僕を鑑定できないから、この街で鑑定してもらえって言われまして」


 「ほうほう。リスタ以上……じゃあピーター君は強いんだね! よし決めた! 気になるから、私も一緒に鑑定ギルドまで行って、君のステータスを見るとしよう!」


 は? なんでそうなる?


 「それじゃあ決まりだ、ギルドに行こうピーター君!」


 いや……誰も決めて無いんですけど。

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