魔法帝国ギリア

第6話 魔術師ギルド

もう何時間も歩いては走ってを繰り返しながら進んでいる。幸いなことにここまで熊などの獣に一度も遭遇していない。

遠くに舗装された道のようなものが見えてくる。あれはギリアに続くのだろうか。分からないが、辿っていくしかないな。そう思って途中からその道を進んでいく。


しばらく歩いていると後ろから荷物を積んだ馬車がガタガタという音を出しながら後ろから迫ってきていた。道を開けようと右の端に体を寄せると声をかけられる。

「兄ちゃん、ギリアに向かってんのか? 」

「え、あ、はい」

「そんなら乗せてってやるよ。後ろに乗りな」

「あ、ありがとうございます!」


後ろに回り、乗り込もうとした直前になって何故か尻込みしてしまう。このまま乗ってもよいのだろうか。息が荒くなっていく。フラッシュバックのように思い出されたいつかの風景と重なる。


「乗ったか、出発するぜー」

「あ、ちょっと待ってください!」

そう言いながら、深呼吸をしてから乗り込む。

「はい、乗りました」

「よしきた」

パァンといった音が聞こえ、その音を切り目に馬車はのろのろと動き出す。

見渡してみるが、少し床に草が散乱しているだけで中には何もなかった。もしかしたら商売が終わった帰りなのかもしれない。ゆっくりと腰を落とす。

(…少し眠ろう)

馬車の小気味良い揺れと蓄積されてきた精神的な疲れによって半ば気絶するようにして意識を手放した。


夢を見た。タール達と学校で授業を受けている夢。黒い板に書かれた知らない文字を必死に写していた。とても意味が不明で、けれども不思議に懐かしく思える夢。

…僕って何者なんだろう。自分が記憶をなくしたと気付いたその時からずっと考えていた。けれど今確かなのは、僕は村長の息子だということ。皆に希望を託された人間であるということ。今はこれに縋って生きていくしかない。


ゆっくりと馬車が止まる。

「着いたぞ~」

窓から顔を出し外を覗くと目の前には非常に大きな門があった。

「でっかあ…」

「お、その反応は。さてはギリアに来るのは初めてか。門に入る前に少しばかり手続きを済ませないといけないから、ちょっと付いてきな」

そう言われたので後を付いて行く。男は僕のことを指さしながら門番にお金を手渡した後札を二枚受け取りその一枚を僕にくれた。

さっきのお金って…と尋ねると気にすんなと返された。やっぱり入場料とかなのだろうか。

申し訳なさそうにしていると頭を撫でられる。

「大人に頼れるのは子供の頃の特権だぜ? 大人になった時に、困っている子供がいたら助けてあげる。その繰り返しで世界は回ってるんだよ」

「…ありがとうございます!」


門をくぐり抜けた後その男と別れる。

「あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「ウバン。ウバン・ルースだ。兄ちゃんの名前はなんていうんだ?」

「ヘルトです」

ヘルト、またな。

そう言い残し、ウバンは馬車に乗り込み進んでいった。

優しい人だったなとそう思いながら僕も進みだす。

ウバンにさっき聞いたが、このまま真っすぐに進んで3つ目の曲がり角を左に進んだ先に安い宿があるらしい。まずはそこを目指そう。


「ここかな…」

 宿屋ルースと書いてある看板がぶら下がっている。おそらくウバンさんが言っていた安い宿とはここの事だろう。

(うん? 宿屋ルース?)

 何か引っかかりながらドアを開ける。すると目の前に仁王立ちをしたウバンさんが現れた。

「さっきぶりだね、ヘルト君!」

「え⁈ なんでウバンさんがここに…ってもしかしてここの店主だったり?」

「ああ。妻と二人でここを経営しているんだ」

 驚いた。別れる時に言っていた、またねってそういう意味か。なんだか嵌められたような気持ちになった。どうやら奥さんはキッチンで料理の下準備をしているらしく、ウバンさんに案内される。

「こんにちは、今日からこちらでお世話になるヘルトというものです」

「ご丁寧にどうも、サーシャ・ルースです。どうぞゆっくりしていってね」

 挨拶も済ませたところで部屋に案内される。3部屋あるうち1部屋は埋まっているらしい。

 適当に階段に近いほうの部屋を選び代金を支払うと(袋の中に入っていた銀色の硬貨1枚で宿泊一か月分らしくとりあえず1か月分払う)部屋の鍵を渡された。常に施錠しておいてくれと言われる。

 なんでも最近はここ周辺の治安が悪いらしく、鍵を開けっぱにしていると泥棒が入って荷物を盗まれるとのこと。困ったことがあったらいつでも呼んでくれと言われたので、早速お金を稼ぐにはどこで働けばよいかと聞くと

「魔法が使えるんなら魔術師ギルドに行ってみると良いと思うぜ。あまり詳しくは知らないが、自分の適性にあった仕事を斡旋してくれるらしい」

 とのことなのでとりあえず行ってみることにした。

 この街(32番区街というらしい)の中心部にあるらしく一番目立つ建物ですぐわかると聞いたが……

 あの建物のことだろうか。人が沢山出入りしているしすごく目立っているからおそらくそうだろう。帽子をかぶり直し、中に入っていく。すこし楽しみだ。


 受付が沢山あってどこに行けばいいか一瞬迷ったが、特段注意書きは見当たらないしどこでもいいのだろう。とりあえず空いている列に並ぶ。そのあとはスムーズに進んでいったけれど、一つ前の二人組が受付の人と揉めているようで流れが止まった。ヒートアップしてきたのか声が大きくなっていく。

「なんで駄目なんだよ?!」

「ですから登録は13歳以上の方からと決まっておりますので」

「別にいいじゃん! 一年なんて誤差だろ?!」

「もうやめよ! 後ろの人にも迷惑かかってる」

 そう言って女の子が男の子を羽交い締めにしながら外に出ていった。

 受付って大変だなあ。そう思いながら進む。

「先程はご迷惑をおかけしました。本日はどのようなご用件でしょうか」

「…初めて来たのですが」

「そうでしたか! 失礼ですがお年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか」

 少し悩む。多分12.13くらいだと思うのだけど。

「13です」

「そうでしたか、魔法はお使いになられますか?」

「はい、使います」

「でしたらこちらの魔道具に手を翳して下さい」

 言われた通り手を翳す。一瞬光ったと思ったら下の方から板が出てきた。取り出す。

「何か出てきたのですが」

「そちらの板を拝見してもよろしいでしょうか」

 どうぞと手渡すと受付の人は受け取った板をしばらくじっと見ていたが、少し驚いたような表情を見せる。

「魔力量が平均よりかなり多いですね。魔法適性は水と火…っと。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「ヘルトです」

 なにかを書きこまれた板を返され、それに加えて紙と針も渡される。

「こちらの紙に書いてある事項をご確認の上、血判をお願いします」

 体が固まる。血判? けっぱん? なにそれ。

 なにも出来ないでいると受付の人が察してくれたのか、丁寧に説明をしてくれた。

 なるほど。針を親指に刺してその親指を使って名前の下に判子を押すと。

 うー、痛そうだな。…えいっ。痛い!


「無事登録は完了です、次回以降の手続きに使用いたしますのでこちらの板は失くさずに取っておいてください。」

 取り敢えず巾着袋にしまっておく。

「そして、ヘルト様。あなた様にはこれから、ギルドが主催する魔法使い養成講座の受講が強制的に課されます」

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