第5話 岡山着。そして、かもめは西へ。
東岡山通過とともに車内にオルゴールが響く。続けて、岡山到着の案内と乗換の案内が丁寧になされる。
岡山に限らず、この手の長距離列車は終着駅や主要駅への到着前はデッキへの往来が頻繁になる。この列車も早速、岡山で降りる客と便所に向かう客がデッキ周辺でいささか滞留気味になっている。
この車両に限らず、この列車は1両ごとに各1か所しか出入口がない。しかもこの車両の前には運転台がついている。定員も他の車両より少な目ではあるが、客席もその分狭く、定員も少なめである。
岡山到着に備えて、すでにデッキから客席にかけて数人の行列ができている。
車掌によっては案内時のオルゴールを案内前だけでなく案内終了時にも流す場合もある。この列車の車掌もまたそのクチで、案内終了時にオルゴールを丁寧に流した。現在列車は旭川に差し掛かろうとしている。
「ほな、ハチキ君、岡山です。降りましょう」
「はい。これで私も、故郷に錦を飾るってことになるのでしょうか」
「言われてみれば、それもそうである。よし、何なら、グリーン車のデッキから降りてみるか? まさに、出世列車で故郷に錦を飾るにふさわしいのではないか?」
「お言葉ですが、そこまでするのもいかがなものかな、と」
「せやな。今頃からそんなしょうもないことしても始まらんわな」
つい十数分前には吉井川の鉄橋を渡ったこの列車は、今度は海側に岡山城と後楽園を少し向こうに眺めつつ、旭川にかけられた鉄橋を渡る。すでにこの鉄橋の東側は住宅地として開発されており、渡った西側ともなれば従来からの住宅地が広がっている。鉄橋を渡った列車は、左へと大きくカーブした線路を進む。吉備商業高校前のカーブをゆったりと減速しながら、列車は岡山駅構内へと進入していく。
かくして定刻の10時12分、特急「かもめ」は岡山駅到着した。下りホームにはすでに多数の新幹線からの乗換客に加え、何人かの岡山から西へ向かう客がこの列車の到着を待っている。
食事時間帯にはまだ早いにもかかわらず、売店では岡山から先の移動時の食糧確保を期して多くの客が飲食物を購入している。この列車だけでなく、後続の列車の乗換客も混ざって、さすが鉄道の大拠点駅らしく、ホームは活気にあふれている。
石村教授と八木青年をはじめ十人前後の降車客が降りるや否や、新幹線からの乗換客がこの気動車特急の車内に吸い込まれるように入り込む。この列車は全席指定の列車であるため、立客は出ない。しかも今は閑散期にあたるため、列車自体が満席になるほどでもないのだが、それでも車内には7割前後の客が乗車している。隣のグリーン車も、定員の6割近くは埋まった。
なかには、乗車してすぐ食堂車に入る客も数名だがいる。まだ食事時間帯には早いが、それでもこの食堂車に行くことを楽しみにしている客も少なからずいるようである。食堂車では少し早めの昼食をとっている客もいれば、昼前から酒を飲み始めている客もいる。満席とまではいかないが半分以上の席がすでに埋まっている。
3分程度の停車を終え、13両もの大所帯となる「かもめ」はタイフォンを高らかに鳴らしてさらに西へと走り去っていった。
「ほな、地下街の喫茶店に私の先輩やそのご友人の方がおられるから、まずはそこへ行こう。もうしばらく、付合ってくれたまえ」
石村教授と八木青年は地下への階段を降り、改札で切符を渡して目の前の三番街の喫茶店へと入っていった。
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