156.「ええぇ……?」

「よし」


 右よし左よし。俺は物陰を出て、アイテムボックスに駆け寄った。


上位チャット:こそこそ

上位チャット:慎重エルフしてる

上位チャット:階段ぎわのアイテムは取らないの?


「吹き抜けで視界がひらけてるからな」


上位チャット:徹底してる

上位チャット:うーん、ちょっとだけならいいような気もするが……


「リスクが大きいことはしないぞ」


上位チャット:はぇー

上位チャット:思ったよりちゃんと思考切り替わっててびっくり

上位チャット:それな

上位チャット:エルフさんは我慢できる子


「む」


上位チャット:お?

上位チャット:止まった

上位チャット:エルフさん?

上位チャット:どしたの?


「人狼って何人?」

「はいはーい。二人ですよー。……言ってませんでしたっけ?」


上位チャット:言ってないです

上位チャット:ゲーム始まったら説明するのかと思ったらそんなことなかったです


「よし」


上位チャット:え、階段そばのアイテム取るの?

上位チャット:めっちゃ階段駆け下りてくw

上位チャット:この十秒で慎重さどこ置いてきたのw


「下にあった伝声管は使えるのか?」

「え、あー……おそらくいけるんじゃないかと!」

「伝達対象は?」

「伝声管の近くにいない人も含めて全員です! 多分ですけど!」


上位チャット:もうちょっと覚えてきてw

上位チャット:というか、伝声管って現代の船にあるの?

上位チャット:少し古い軍艦なんかではあるよ

上位チャット:自衛隊でもあさぎり型護衛艦がまだ現役のはず

上位チャット:意外に現役の技術

上位チャット:で、何を伝えるんだ?


「人狼が攻撃手段をなくしたぞって伝える」


上位チャット:え

上位チャット:はい?

上位チャット:なんでそう思ったの?


「二分半くらい前と五十秒くらい前に、それぞれゲージの伸びが落ちたきり戻る気配がない」


 つまり、その二回で二人のプレイヤーが死亡し、同時に人狼二人は持っていた攻撃権をどちらも使い果たしたということ。大胆に動いても危険はなくなったのだ。


上位チャット:……気付いたか?

上位チャット:いや、ゲージの変化なんて注視してないし

上位チャット:しててもわからんと断言する

上位チャット:でも、それならここ三分間ずっと目の届く範囲にいた人がいるか確認するべき

上位チャット:あ、うまく行けば人狼が一気にあぶり出せるのか!


「なるほど」


 俺は伝声管を開いて説明を始めた。


上位チャット:それにしても、エルフさんの謎スペックが推理に役立つのか……不思議な気分だ

上位チャット:役立つのかなぁ?

上位チャット:今まさに役立とうとしてるのでは?

上位チャット:いや、他の人には確認できないじゃん

上位チャット:あー……

上位チャット:そっか、エルフさんのこの証言って「人狼の殺害を見た」って証言と大差ないのか


「ダメなのか?」


上位チャット:証拠能力はないですね

上位チャット:エルフさんが確実に村人陣営であれば、その証言も価値があるんだけど

上位チャット:そうとは限らないもんな


「本当だぞー」


上位チャット:説得力の向上を感じる

上位チャット:これは村人

上位チャット:草

上位チャット:他の人たちはどんなリアクションしてるんだろう

上位チャット:ちょっと気になる


「む」


上位チャット:お?

上位チャット:今度は何?


「ゲージの伸びが止まった」


上位チャット:他の人たちがどんなリアクションしたかわかったわw


【お知らせ】

 カクヨムネクストで連載中の『その誇りに代えても』本編が完結しました。

 ゆっくりペースで番外編の連載を続けるつもりですが、完結してから一気読みをと思っていた方はぜひお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093076213231611

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