152.許される職権乱用

「俺様は焔村ほむら炎太郎えんたろう、だいたいレースゲーム系の配信をしているぜ! 夢はVで配信するプロゲーマーだ! ……が、このアバターは何なんだ!?」


上位チャット:兄貴ー

上位チャット:ほう、炎太郎はこういうアバターになるのか

上位チャット:AIも俺らと同じ発想をしてて草

上位チャット:あー、いいねいいね、似合ってるよー。ちょっとそこで四つん這いになってみようかー

上位チャット:さり気なく四足歩行を勧めるなw


 炎太郎はクマだった。

 より正確には、サングラスをかけた茶色いクマのアバターになっていた。


「俺様、ヒゲはともかく体毛はそこまで濃いわけじゃないんだが!?」

「次はミソラだな」

「待て待て待て! エルフさん、せめてコメントをくれ!」

「もう少し明るい色合いがいい」

「ダメ出し!?」


上位チャット:草

上位チャット:人数多いから紹介もサクサク行かないとね

上位チャット:たとえ、二人きりだったとしても同じことしたと思うぞw


「《熱狂応援ミソラチャンネル》の応援団長、ドレミソラです。体験を通して、逆境にある人を応援しています。目指せジャイアントキリング、ですっ!」


上位チャット:逆神様はVのアバターじゃなくて本人からアバター生成してる?

上位チャット:っぽいね

上位チャット:デカいゴーグルした女の子……いいよね

上位チャット:いい……


 ミソラのアバターは顔の半分はあろうかという巨大なゴーグルをかけた女の子だった。

 その破れた服のすそと肩にかけたロープが、彼女を冒険家に思わせた。


「同じく《熱狂応援ミソラチャンネル》の雑用担当です。ミソラ視点で編集したハプニング満載の動画を後日公開しますので、こちらもよろしくお願いします」

「リクくん、まだやってないのにハプニング満載ってなんでわかるのっ!?」

「起きなければ、僕が作りますから確実です」

「作るのっ!?」


上位チャット:副団長

上位チャット:スタッフ

上位チャット:リクって名乗れ

上位チャット:相変わらず、姉に対してドSで安心した


 スタッフのアバターは野球帽を目深まぶかに被った男の子だった。

 一文字に結ばれた口と構えたカメラが、彼に黒子を思わせた。


「エルフさん、今日はお世話になりますっ!」

「その節は姉共々お世話になりました」

「ん」

「今日も――勝たせてもらいますからねっ!」

「負けないぞ」

「ふふふっ、エルフさんすっごい強いといいなー」


上位チャット:うーん、ジャイアントキリングジャンキー

上位チャット:逆神様が楽しそうで何よりです

上位チャット:困った人を助けてきた印象あるエルフさんだけど、逆神様は性癖を助長しただけなんだなって

上位チャット:性癖言うなw


「えっと……セイレーンです」


上位チャット:はい

上位チャット:はい

上位チャット:もう一声


「あの、えと……配信者、してます」


上位チャット:はい

上位チャット:そうですね

上位チャット:やってる配信について触れるといいよ


「あ、ありがとうございます。いろんな歌を歌ってます! ……他は何もしてないです」


上位チャット:ダメですねこれは

上位チャット:キョーカちゃんが絶望的に配信慣れしてなくて笑う

上位チャット:大漁旗を掲げろォ!

上位チャット:船乗りはそれでいいのかw


「キョーカは漁火いさりびセーレの名前で歌の配信をしているぞ。《落ちりて》も上手だから、見てもらうといい」

「あ、うん。やってみるよ、お兄ちゃん」


上位チャット:助け舟が出た

上位チャット:キョーカちゃんの『落ちりて』配信が決まったと聞いて

上位チャット:素直に楽しみ

上位チャット:ありがてぇありがてぇ


 キョーカのアバターは鳥の羽の生えた女の子のもの。

 ぱっちりと開いた目と手に持ったマイクスタンドが特徴的だった。


「《2.5D》代表の――ここにいる視聴者には、エルフに自信ニキと名乗った方がいいだろうか? しがない神話好きだ。配信者としての活動は初めてだが、よろしく頼む」


上位チャット:しがない神話好き?????

上位チャット:ダウト!

上位チャット:エルフ好きでしょ!


 エルフに自信ニキのアバターはスーツ姿の青年だった。

 ただ、現実の痩躯が強調され、かなり病弱に見えるデフォルメがなされていた。


上位チャット:顔色悪いっすね

上位チャット:ふらついてる

上位チャット:他はみんな健康そうなのに、エルフに自信ニキだけなんでだろ?


「たまたまのことだろう。春の健康診断では何も問題はなかった」

「徹夜明けか?」

「……多少は眠れたつもりだが」


上位チャット:エルフさんに秒でバレるエルフに自信ニキ社長

上位チャット:早かったなぁw

上位チャット:そんなに時間なかったの?

上位チャット:無理しない方がいいんじゃない?


「いや、その……」


 エルフに自信ニキは珍しく口ごもった。


「どうした?」

「エルフさんもそうだが、《2.5D》の面々とも遊ぶというのが……」

「いうのが?」

「……少しばかり楽しみすぎて、なかなか寝付けなかったのだ」


 エルフに自信ニキはそっぽを向いて、部屋の隅まで逃げていった。


上位チャット:そっかー、手塩にかけて育てたタレントたちが可愛くてしかたないのかぁ

上位チャット:んふー。やべぇ、ニヤニヤする

上位チャット:いやぁ、いいことだと思うよ

上位チャット:そうそう。自分とこのタレントを大事に思ってるってことだし

上位チャット:照れることじゃないよー、グフフ

上位チャット:どうしよう、エルフに自信ニキが可愛い


「……エルフさん、先に進めてもらいたい」

「社長はタレントの皆のグッズを出すたびに、一番最初に購入されています」

「瀬貝くん」

「通販の開始が、予告された販売開始日時より一分ほど遅れるのはこのためです」

「瀬貝くん!」


上位チャット:ここぞとばかりに攻めてくる秘書さんw

上位チャット:これは許される職権乱用


【お知らせ】

 カクヨムネクストで連載中の『その誇りに代えても』50話無料キャンペーンが始まりました。キャンペーン開始当初35話だったところ、50話に拡大していただきました。

 9月1日までの期間限定ですので、ぜひこの機会にお読みください。あと、フォローと☆をお願いします!

https://kakuyomu.jp/works/16818093076213231611

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