第9話 ユイと香澄 新たな主従関係

それから数年が経過してしまった。


香澄は若くして父親の会社の重要な役職につかされた。

親のコネということもあり、周りからはそういった目で見られてしまう。

しかし、そんなこともものともせず、肩書に見合った働きをするように日々奮闘していた。


香澄は今日も休日だというのに自室の机に幾つも資料を広げ、難しい顔をしている。

そんな香澄の机にメイドの高木が一杯の紅茶とチョコケーキを持ってきた。


「お嬢様、少し休まれてはいかがですか?」

「ふぅぅ…そうね。休憩するわ」


香澄はいったん資料を片付け、テーブルに出されたチョコケーキにフォークを入れ、口に運ぶ。

綺麗な飴細工が乗ったほろ苦なチョコ、洋酒もかなり効いている。


(もぐ…もぐ…やっぱり苦いわねこれ。体は大人になったけど、口がまだ子供のままなのかしら)


母が経営している店のロングセラーのチョコケーキ。

これを食べるといつもあの日、あの顔を思い出してしまう。


(由衣…元気かしら?最近全然連絡取れてない。会いたい…また顔が見たい)


由衣とは大学時代の長い休みに数回会えたっきりだ。

お互い社会人になってからは連絡は取っているものの、直接会えてはいなかった。

これも香澄が多忙なためでもあるが。


また、大人になってから香澄はあのような変態プレイは控えていた。

それにアレに付き合ってくれそうな人もいない。

目の前のメイドの高木はプレイに関して理解はあるが、彼女は既婚者でもうパートナーがいる。

そんな女性に強要はできない。


「ふぅぅ…美味しかったわ。ありがとう高木さん」

「いえいえ、私は配膳しただけなので」


ケーキを食べ終わった香澄は高木に食器類を渡す。

しかし高木は部屋から出ていかない。

その手には何か封筒のようなものを持っている。


「その手に持ってるもの…なにかしら?」

「はい、お嬢様に確認していただきたい書類がありまして…」


高木は封筒から書類を取り出し、香澄に手渡す。

香澄はサッとそれに目を通し、また難しい顔をする。


それはあるロボットの資料だった。

主人の身の回りの世話やスケジュール管理をしてくれる人型ロボット…通称秘書ロボットの話が書いてあったのだ。


「秘書ロボット?そんなもの実在するの?」

「えぇ、実は試作機がすでにこのドアの向こうに待機しております。お嬢様の許可が下りれば即採用できますが、呼びますか?」

「来てるの?じゃあ呼んでもらえる?採用はまぁ…見てからね」

「わかりました、少々お持ちください」


高木は部屋のドアを開く。

すると噂のロボットがゆっくりと入ってきた。

香澄はそれを見て目を大きく見開いた。


「どうぞお嬢様のお好きなようにお使いください」

「…………」


香澄は顔を真っ赤にし、開いた口が塞がらない。

渡された資料のロボットは人型ではあるが、かなりメカメカしい。

しかし目の前に現れたものはロボットというより女性型のアンドロイド…動きもかなりしなやかなのだ。

現代科学が進んだとはいえ、これほどのものを香澄はまだ見たことがない。


それ以上に驚かされたのがその恰好。

全身肌色のラバータイツを着こみ、テカテカの淡い水色のサイハイブーツとロンググローブ、ピチピチの袖なしレオタードを着ている。

髪は水色で肩まである真っ直ぐなセミロング。

そして目がクリクリと大きく、アニメから出てきたような顔をしている。

その姿はまるで香澄が昔、メイドの高木や由衣に着せていたような美少女着ぐるみだったのだ。


口をパクパクさせて何か言いたげにしている香澄に、高木はロボットの説明をし始める。


「この子はU01(ユーゼロイチ)です。気軽に"ユイ"とでもお呼びしてはいかがでしょうか?」

「………ユイ!?」


香澄は高木をパッ!っと見る。

それに対して高木はただニコッっと微笑むだけだった。


香澄は慌てて椅子から立ち上がり、U01の元に駆け寄る。

U01は手を腰辺りで前に組み、香澄にお辞儀をした。

ロボットとは思えないようなしなやかさ。

そしてどう見てもテカテカレオタードに包まれたお腹を出たり引っ込めたりして呼吸をしている。


「ふぅ…ふぅ…ふぅ…ふぅ…」

「もしかして由衣なの!?」


U01は可愛らしくコクリと頷く。

そして太もものベルトに付いている携帯端末を手に取り、画面をタッチペンのようなものでなぞり、字を書いた。

その画面を香澄の目の前に提示する。

そこにはすごい特徴のある丸文字でこう書いてあった。


『はじめまして?わたしはU01です。カスミチャン、わたしをやとっていただけますか?』


U01は可愛らしく左手を口に添えて首を傾げた。


香澄はその左手をギュッと両手で握りしめた。

そして唇を震わせながらその問いに応える。


「えぇ…えぇ!これからも宜しくね!ユイ!」


香澄は目に涙を浮かべながらU01に満面の笑みを向けた。

U01はその場でピョンピョンと飛び跳ね、香澄をギュッ!と優しく抱き閉めた。

そのラバーで包まれた肌からはあの時と同じように、アツアツになった中の人の熱が伝わってくるのだった。


〈完〉

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人権を売った女子高生 変態令嬢との歪な着ぐるみプレイ生活 MenRyanpeta @MenRyanpeta

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