第8話 別れ
3月。
あっという間に時は流れた。
香澄は都内の難関私立大学に無事合格し、転居先のマンションに少しずつ荷物を送っていた。
その間ももちろん由衣は香澄に着ぐるみを着せられていた。
あんな淫らな遊びを繰り返す中、由衣は「よく勉強に集中できたな」と香澄のことを感心していた。
おそらく香澄にとってはいい息抜きになっていたのだろう。
お互い受験が終ってしまい、今日高校も卒業してしまった。
由衣の家の借金は、香澄の父親の会社からの援助という形で支払われてしまった。
つまり由衣と香澄の淫らで歪な契約も今日で切れることになる。
由衣も香澄から間借りしていた部屋の荷物を実家(家族が住んでいるアパート)に送ってしまっており、あとは手荷物だけになっている。
何もない綺麗になった部屋を見ながら由衣は今までの出来事を振り返っていた。
(すごい色々あった。犬にされてお尻に変なものまで入れられたり、着ぐるみ着て香澄ちゃんにお勉強を教えたり。ご褒美とかいってイかされちゃったり。香澄ちゃんの手で直接…)
プレイ時の時を思い出し、由衣の顔が赤くなり、体の奥が熱くなる。
それと同時に香澄の笑顔も脳に蘇ってくる。
(あんなエッチなことしてくるのに、なんかすごく嬉しそうだったよね。それに普段の時も笑うようになってくれたし、下の名前でも呼んでくれるようになった。でも…今日で終わりなんだ、三な毎日も)
由衣が寂しそうに俯くと部屋のドアがノックされた。
『由衣?開けてもいいかしら』
「うん、いいよ」
ドアが開く。
そして香澄が顔を覗かせる。
これはいつものやり取りで、この後だいたい着ぐるみを着せられて由衣はエッチな目に遭わされるのだ。
だが今日は少し勝手が違っていた。
いつもの香澄ははにかみながら少し歪んだ笑みを浮かべているのだが、今日は元気がない。
それもそのはず、これが二人の別れの挨拶となるのだから。
香澄は由衣の手荷物を見て目を少し大きくした後、またシュン…と俯いてしまった。
「準備…できたみたいね」
「うん、今までありがとね。大変お世話になりました」
由衣は香澄に深々と頭を下げた。
香澄は下唇をキュ!っと噛みしめ、手に持っていたものを手渡す。
microSDカードのようだ。
「これ、貴女が着ぐるみ着たときの写真とか動画が入ってるの。記念ってわけじゃないけど…貰って」
「う、うん。ありがとね」
由衣は反応に困ってしまう。
香澄は顔を少し赤くしているが、やはりうつ向いたままだった。
二人は廊下を通り抜けリビングに出る。
そこは二人が毎日のように一緒にご飯を食べたり、勉強したり、そして着ぐるみを着たりといった思い出の場所だ。
香澄はそんなリビングのドアに手をかけようとしたが、その手を下しまった。
そして由衣の方を振り向き、俯きながら目を横に逸らす。
「ねぇ由衣」
「ん?なあに?」
「私の最後の我がまま…聞いて欲しい」
「………うん」
由衣はゆっくりと頷く。
香澄はうつ向いた顔を由衣に向けた。
眉をハの字にし、唇を震わせながら。
「終わりにしたくない」
「え?」
「貴女との関係を…!」
香澄の目には涙が滲んでいた。
「離れたくない!こんな私を…あんな酷いことしても友達って言ってくれて、優しく接してくれた貴女と!ずっと一緒にいたい!これからもずっと!ずっと…お願い…由衣…」
「香澄ちゃん…」
香澄は感情を爆発させていた。
今まで心の奥にしまい込んでいた気持ちが抑えきれなくなってしまったのだろう。
普段は大人びていて落ち着き払っていても、本当は年相応の女の子なのだ。
香澄は都内、由衣は地元の大学に進学する。
また香澄は大金持ちの令嬢、由衣は一般家庭の女の子だ。
おそらく二人は別々の進路に進むことになる。
今まで通り毎日会うことは不可能だし、大学を卒業してしまえばほとんど会えなくなってしまうかもしれない。
二人ともそのことは重々理解している。
これが香澄の最後の我がままだった。
ポロポロと涙を流す香澄に由衣はそっと寄り添い、ギュッと優しく抱きしめた。
いつもの着ぐるみ姿とは違い、等身大の由衣の体で。
そして香澄の耳元で優しく語りかける。
「大丈夫、最後の別れじゃないんだから」
「でも…でも!」
首を横に振り、震える香澄の体を由衣はさらにギュッ!と抱きしめる。
「きっとまた会いに来るよ。そしたらまた一緒に遊ぼ…ね?」
「………うん…うん」
香澄は下唇をギュッ!っと噛みながらコクリ…コクリ…と由衣の言葉を呑み込む。
そして由衣の体をギュウッ!っと力いっぱい抱きた。
二人は大学へ進学し、別々の道を歩んでいくのだった。
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