第7話 柚子の正体

 彼奴から電話って珍しい。柚子さんに先へ行ってとジェスチャーをする。

 離れたのを確認ができ、電話を出る。


 『お前から電話って珍しいね。つうか! 今度会った時一発殴るからな!!』

 『何をそんなに興奮している? あー俺がお前の住所を教えたことか』


 こいつ何の悪びれもせずに言いやがって! 怒りで手が震えると、黒霧が言葉を紡ぐ。


 『あの時嫌な予感がしたし、実際問題は起きたじゃあないか』

 『それは……』


 黒霧の言葉は否めなかった。実際あの時何者かに襲われた。

 柚子さんが来なかったら命が危なかったのかもしれない。その点を考えれば感謝はできる。

 それでも流石に人の住所を教えるのはどうかと思う。


 『ここから本題だ』

 『お前にしては珍しく真剣なトーンだな?』

 『黙って聞いてろ、ニュースになっている橘一家失踪事件だがな、あそこは三人家族構成だ』

『え、四人の間違いじゃなくてか!?』

『ああ、間違いない。そもそもとして橘一家は一人娘だ。次女なんか存在しないし、橘柚子という人間はこの世に存在しない』


 ちょっと待て!? じゃあ今俺が行動している彼女は一体誰だ?

 黒霧が嘘を吐くとは思えない。まずこんな状況で彼奴はくだらない嘘を付かない。

 と、すると信憑性が高い。


 『なぁ絵を取りに行くと言ったよな? お前今どこにいる?』

 「TUさんどうかしたんですか?」


 上へ上がる階段の隙間から柚子さんが顔を出す。

 表情も目も笑っておらずこっちを真っ直ぐ見ている。暗い学校の中もあり怖い。

 徐々に距離を縮めてくる。

 動け動け! 今立ち止まっていたらとにかく動け。

 スマホを片手にスケッチブックを持って走る。兎に角柚子さんから離れる為に走り学校の外へ出る。

 視線を感じ、チラッと見ると窓からこちらをずっと見ている柚子さんの姿が合った。

 そこから無我夢中に走り、家へ帰ってきた。

 急いで部屋に入り、今できる限りのもので厳重な扉にしガムテープで窓を塞ぐ。


 ◇


 柚子さんと別れてからどのくらいの時間が経ったか分からない。

 あの日を境に僕は部屋に閉じ籠り、スマホを開くこともしていない。

 違うな、怖くて開けてないというのが正しい。スケッチブックも同様。

 ああ怖い怖い、恐怖に心が支配されそうになる、あの忠告も合った。

 今手を引けば助かるのでは? そんなことを考えていた時……頭には柚子さんとの会話が過ぎる。

 

 『真相を知りたいんです!』


 彼女から聞いた言葉、あの時確かに頑なに強い意志を感じ取れた。

 彼女という存在は嘘だが、気持ちまで偽っているのか? 僕を騙す為に吐いた嘘?

 様々な憶測や仮説を作り思考をする。

 ピンポーンと家のチャイムが鳴る。今は一体何時だろ? 久しぶりにスマホの電源を入れる。

 昼の三時を指しており、通知が結構溜まっていた。

 厳重にされた部屋を解き放ち、家の扉を開ける。すると豪雨のような雨音が響き、外の床はずぶ濡れ。

 ポツリと立っている柚子さんがいた。


「取り敢えず中に入って下さい」

「失礼します」


 柚子さんを部屋に招き、タオルとコーヒーを出してあげる。


「ごめんなさい。そしてありがとうございます」

「……どうしてここまで来たんですか?」


 少し冷たく言ってみる。どういう反応するのかを見てから追い出すか決めよ。


「私が次女っていう嘘がバレたんですよね?」

「どうしてそんな嘘を吐いたんですか?」

「私はあの失踪した一家と関係性はあります。橘友紀の従姉妹なんです」

「じゃあどうして最初からそう言わなかったんですか?」

「実は私の両親……


 殺されている? そして従姉妹、この情報が本当ならば彼女は確かに関係者。

 だが、今その情報は関係ない。


「殺したのはA子何です」

「現場を見たんですか?」

「見ました、包丁でグサグサと刺す姿を、その時、ボソッと言ったんです。樹海に埋めないと」

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樹鳴 リア @sigure22

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