想い出

勝利だギューちゃん

第1話

「ねえ、あなた」

「どうした?」

「あの事覚えてる?」

「あの事って?」


夜、寝ていると隣で寝ている妻が声をかけてきた。

数日前に仕事を退職し、子供たちも独立。

今は、妻とふたりぐらし。


余生はのんびり過ごそうと思う。

〈国が許してくれたらだが〉


「高校生の頃、未来博物館へ行ったでしょ?」

「ああ。いったな。列車を乗り継いで・・・」

「未来への手紙を残したわね」

「あったな、そんなこと」


住所と名前を書いておいた。

今なら出来ない。

でも、自分宛だからいいかな。


「何年後にしたっけ?」

「忘れた」

「なんて書いたの?」

「覚えてない」

「そっけないわね。まああなたらしいけど」


妻はふてくされて寝てしまった。


・・・


夢か・・・

目が覚めた。


誰もいない寝室に1人で寝ている。

家族はいない。

独身だ。


「そういや、そんなこともあったな」

夢は過去に起きたこと。

過去に起きたことを夢に見た。


彼女とは、あの後別れた。

失恋ではない。

今生の別れ。


彼女は、デートに行った数日後に、旅立った。


翌日、帰宅したらポストに手紙が入っていた。

差出人は・・・


慌てて封を開ける。


『〇〇くん、久しぶり。

これを、あなたが読んでいるということは、私はもういないわね。


あのデートに行った日。

本当は、私はもう長く生きられなかったの。

でも、あなたとの想い出を作っておきたくて、デートに行ったの


でも、少しそっけない場所だったね


ただこうして手紙を送れたのは、ラッキーかな」


あの世へ行くとき、持っていけるのは想い出だけ。

あなたとの想い出がほしかったんだ。』


あれから随分と経った。

人は死ねば、想い出の中でしか生きられない。


去る者は日々に疎しというが、それは嘘だ。

僕の中で彼女の存在は大きい。


今でも心の中で、僕の想い出の中で生きている。

眼を閉じれば、そこには彼女の笑みがある。

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想い出 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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