第18話 家族の一人だから
「冷ましてから食べないとやけ……」
「熱っ! これ絶対やけどした~!」
「忠告間に合わなかった……」
「ん? めっちゃ酸っぱいっ!?」
「梅干しなんじゃないですか?」
時刻は七時三十分。
閉店時間を過ぎたガーベラは笑い声に包まれている。
「さあ、どんどん食べろー。今日はパーティーだからな~!」
そう、パーティーっ!! そして今、みんなで食べているのはたこ焼きっ!
タコパだよ、タコパ……ではないかもしれないけど。一応。
フウたちも戻って来てくれたし、みんなで予定通りパーティーやろうって話になって、ちょうどみんなでワイワイ言いながら楽しんでいる真っ最中なんだ!
「うわ、なんか変な味する……これグミ? これ入れたの誰?」
「あ、それわたしだ~」
「フウ~! フウも食べてみろよ」
「あ、これおいし~い」
「何入れたの?」
「えーっとね、納豆かな?」
そう、各自たこ焼きの中に好きなものを入れて焼いているんだっ!
でもどれに誰が入れたのかはわからないから、どんな食材が当たるのかわからないっていう、スリル満点(?)なタコパなの。
……もう、タコパとは言えないかもしれないけど。
「……リンゴ入れたの誰」
「あ、ボクかも」
「……」
たこ焼きには合わなかったかな……。
雨海くんのシブい顔が肯定を示す。
「? これもしかしてチョコですかね?」
眉をひそめる出雲くんに、雨海くんが答える。
「……ぼく入れたかも」
「ええっ、雨海兄さんも食べてみてくださいよっ」
「……遠慮しとく」
たこ焼きにチョコ?
こ、これは合うのか……。
「あれ、そういえばタコは入ってないの?」
幸兄にボクが質問すると、どーでしょう? といってごまかしてくる。
でも、となりにいた廉斗さんが「この中に十個だけあるよ」と教えてくれた。
この中……って……。
五十個一気に焼けるプレートなのに、その中に十個?
「ちなみに俺は四回タコ食べてるよー」
と、幸兄。
「……ぼくも三回食べてるな」
と、雨海くん。
え、なんでそんなに食べれるの?
「ハハハ。私も三回食べてるぞ」
廉斗さんまで……。
ん?
ちょっと待って、もうすでにタコ十個食べられてるっ……。
おかしい、どうして。
そこでボクは幸兄と廉斗さんの持っているものを目にして、なるほどとうなずく。
たこ焼きをひっくり返すっていうのかな? それに使う道具を持ってる。
(後で調べたら、どうも「たこ焼きピック」と呼ばれるらしい)
自分でひっくり返してたら確かに場所覚えてられるもんね。
でも雨海くんは?
じーっと見つめるとその視線に気づいた雨海くんがたこ焼き(ゴロゴロ枝豆入り)を食べながら答えてくれる。
「覚えてた」
え、覚えてた……?
ずっと目で追ってたってこと?
すごっ……。
「はーい、二回目焼くよー!」
「やったー!」
「次タコ多めにしてね。そろそろタコ食べたい」
焼き終わるまでの時間、みんなはお店の中でわいわいがやがやとはしゃぎまわる。
雨海くんだけが頬杖をついてその様子を眺めてた。
「そろそろ具材入れていーよ。好きなの入れなー」
「何にしよっかなー」
「さっきおいしかったものを入れるのもありですね」
「フウ、グミだけは入れるなよ! たこ焼きには絶対合わないっ!」
「え~」
みんな楽しんでいるようで、ボクはホッとする。
少しでもボクが仲良くなりたくてこの企画を考えたけど、みんなが仲良くなっているようで嬉しい。
大きな机でプレートを広げて焼いているんだけど、机の右側と左側の温度差よ……。
右側、わちゃわちゃ楽しそう。めっちゃ話盛り上がってる。
左側、シーン……。無言。どちらかと言うとプレートは左側にあるんだけど、そのプレートの熱さに負けない静かさ……。
「ほい、雨海くんもやってみる?」
タコ焼きピックを廉斗さんに渡された雨海くんは、下を向きながら小さな声で断る。
「そうかー。あ、そうだ。さっきも本読んでたけど好きなのかな? おすすめの本とかあるならぜひ教えてくれ」
何とか会話を生み出そうとしてくれる廉斗さんに、雨海くんは一言。
「……嫌いです」
本、嫌いなんだ。
本読んでるときだけは自然な雨海くんって感じだったのに。唯一、安らげる場所と言うか……。
「ちょっと、外出てきます」
ガタン、と音を立てて立ち上がった雨海くんをだれも止めることはできずに、そのままドアを押し開けて外に行ってしまった。
「……っ! ごめんなさい、追いかけてきます!」
晴玲くんが真っ先に気づいて、雨海くんが消えたほうに走っていったのが見えた。
「……大丈夫、かな……」
「天音ちゃんが気にすることないよ。大丈夫」
「っ!」
フウのボクを気遣って言ってくれたその言葉に、一気に距離が開いたみたいに感じた。
ボクは雨海くんの。
「…………だから」
え? と聞き返すフウに、ボクは言う。
「大切な、家族の一人だから……!」
「っえ」
フウが、出雲くんが、雪良くんが。みんな、ボクを見る。
「そんな、関係ないことあるわけないじゃんっ……!」
それだけ言うと、ボクは外に飛び出す。
早く、早く雨海くんの元に。
真っ暗闇の中、ボクは月明かりを頼りに雨海くんを探した。
―――――
ハ、アッ……ハアッ……。
十メートルぐらい先に、二つ影が見えた。
ガーベラからそんなに離れていない、バス停の前だった。
道路を歩いている人は誰もいない。
車もほとんど通らない。
静かな静寂だけが辺りを包んだ。
「っ。……だ」
「だ……ら…………し……いし……!」
何か、言い争っているようにも聞こえる、二人の会話。
ここでは聞こえない。聞きたい気もするけど、聞いてはいけない気もする。
迷って、そこで立ちつくしていたら、ある言葉が耳に届いた。
「もうだから嫌なんだよっ!!!」
晴玲くんがビクッと肩を揺らす。
「きれいごとばっかり言って、それが何になるんだよっ!!!」
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