第15話 どこにいるんだ

 じ、事件……!?

 でも悲鳴というよりは……。


 むむ……と考え込んでいるボクをよそに、琴葉ちゃんが口を開いた。


「いつも通り、どうやら学園のアイドルさんたちがご登場みたいね」

「?」


 琴葉ちゃんの言葉に、ボクの頭の上にはハテナが浮かぶ。

 フウは「あー」と言って、そのまま気にすることなく食べ進めている。


 悲鳴の聞こえたほうを見ると、女子が食堂の半分くらいを埋め尽くしていた。

 中心にいる人物を見ると、ボクは「な、なるほど」と一瞬で理解する。

 みんなが騒いでいるワケが、さすがのボクでもわかった。

 あの人たちが学園に転校してきてから毎日これだもん。


「天神兄弟カッコよすぎるっ!」

「サイコーだねっ! ここの学園入学してよかった……」


 などなど、あちこちからいろいろな声が聞こえてくる。

 そう、学園のアイドル=天神兄弟。


 ――ピーンポーンパーンポーン


 突然、ひとつの放送が入った。

 でもそれも騒ぎのせいで聞こえない。


 みんなが静かになったころには、もう放送が終わっていた。


「え、今なんて言ってた?」

「食堂とか混雑とか聞こえた気がする」


 琴葉ちゃん、耳よすぎない?

 ようは、食堂が混雑しているので利用者以外は出ていけみたいな?


「えーっと、学食を利用しない方は食堂から出ていってくださーい!」

「ご協力お願いしますっ!」


 学食委員らしき人も加勢し、なんとか天神兄弟を取り囲んでいた人たちに声をかける。

 学食委員は、作ってくれているおばさんたちのお手伝いがメインだとか。あとは新メニューを考えたりするらしいけど……。天神兄弟が来る前までは、食堂で学食委員を見かけたこともなかったのに、今ではもう毎日見かけている。


「大変だね……」


 そうつぶやくフウにボクが一言。


「フウも天神兄弟並に目立ってるけど」

「え、何か言った?」

「なんでもない」


「仲良しだねえ……」


 ボクたちのやり取りを眺めていた琴葉ちゃんが何か言った。


「今なんて言った?」

「なんでもないっ」


 教えてくれたっていいじゃん……。

 えへっ、と笑って残っているお弁当を食べ始める琴葉ちゃんであった。


 ―――――


「幸兄~。あと何買うんだっけ?」

「エビと、納豆と、枝豆」

「おっけ」


 なんだかんだでサプライズパーティーまで残すところあと三日。

 ボクは「幸兄のところ行ってくる」と、放課後に家に帰ってきたあとすぐに家を抜け出し、幸兄を迎えにガーベラまで行き、そこから二人でスーパーマーケットに行った。


 サプライズパーティーに必要なものを買い出しに行ける日が今日しかなくて、こうして二人でこっそりと行くことにしたのだ。


 サプライズパーティーでは、まあ定番と言ってもいい、みんなでわちゃわちゃしながら楽しめる〝あれ〟をやることにしたんだ。

 みんなも一回は見たり聞いたり実際に食べたりしたことはあるんじゃないかな。


「これで全部?」

「うん、一応。他に買いたいものある?」

「ううん、ないよ大丈夫」


 かごを埋め尽くすのは、タコ、イカ、エビ、チーズ、枝豆、納豆、ソーセージ、梅干しなどなど。

 全部、パーティーで使うものである。


「お金足りるかなー」

「サイアクボクのお金あるよ」


 なんて冗談を言いながら、お会計を済ませる。(しっかりお金は足りたよ)


「まーこれで当日は安心だなー」

「うん。上手くいくといいね」

「失敗したらそのときはそのときだよ。なんとかする」


 帰り道は、とっても話が弾んでなんだかとっても懐かしく感じた。


「「ただいまー」」

「おかえり~」


 雪良くんが出迎えてくれて、幸兄の持っていた買い物袋を受け取ろうとする。

 いい子……。気持ちだけで嬉しい……。


「ありがとね、じゃあこっちお願いできる?」


 日用品の入った買い物袋を雪良くんに渡して、幸兄はニコっと笑う。

 雪良くんも、頼ってくれたことが嬉しいのか、まぶしい笑顔を浮かべた。


「雪良くん、そこの棚の近くに置いておいてくれる?」

「はーい」


 幸兄は次々と冷蔵庫に買ってきたものをしまい、夕飯の準備を始めた。


「そういえば雪良くん、フウ見かけなかった?」

「フーちゃん確か二階に行った気がするよ。どうしてー?」

「ううん、大したことじゃないよ」


 雪良くんが教えてくれた通り、フウは二階のボクの部屋でくつろいでいた。

 まあ、悪くはないんだけどさ。


「あ、天音ちゃんおかえりー」

「ただいま。フウに頼まれてたの買ってきたよ」


 はい、とフウに渡して、ボクは勉強机の前のイスに座る。


「ありがとー。これ食べてみたかったの~!」


 カラフルなグミが詰まった袋を見てキャッキャとはしゃぐフウ。

 最近フウの中でグミにハマっているらしく、買ってきて欲しいと頼まれていたのだ。


 まあ、こんなに喜んでもらえるとは思ってなかったから嬉しいんだけど。


「そうそう、そういえば友達から――」


 いつものように学校での出来事を話し始めるフウに相槌を打つボクであった。


 ―――――

パーティーまであと二日に迫った今日。


「天ちゃん、コトちゃん、今日も一緒に食べていい?」

「いーよ」

「いいよーっ」


 あの日からボクたち――フウと琴葉ちゃんを含めた三人は、一緒にお昼休みを過ごすようになっていた。


「今日は焼き鮭定食っ!」

「あー。今日のオススメのメニューになってたヤツ?」

「うんっ」


 もう列に並ぶのにすっかり慣れた様子のフウ。

 ボクはそんなフウの後ろに並び、今日のお昼ご飯を考え始める。


「ボクも今日はご飯系にしようかなー……。あ、親子丼おいしそう」

「親子丼? 友達がおいしいって言ってたから間違いないよっ!」

「ならそれにするか」


 いつもより少しお値段が高めだが、たまにはアリだ。

 最近はアップルパンぐらいしか食べてなかったし。


 数分待ってからボクの番がきて注文し、ボクは親子丼を受け取ってから琴葉ちゃんを探す。今日はそんなに混んでいなかったからすぐに琴葉ちゃんを見つけられた。


「あれ、フウはまだ来てないの?」

「フウちゃん? さっきここに来てたけど……。そういえばいないね」


 いついなくなってしまったのだろう、注文するときはいたんだけど……。

 食堂もにぎわっているので、ここで探すことは難しい。

 ただ迷っているだけかな……?


 でも、なにか違うような気がする。


 なにかってなんだ、フウはどこ行った……?

 フウは自ら行ったのか? 連れて行かれた?

 もしくは……。


 行かざるを得なかった?


 どれだ、どれが正解だ……?


 とにかく、ボクがここでのんきにフウを待っている場合ではない。

 ボクが行かなきゃ。ボクが探しに行かなきゃ。


「ごめん、探しに行ってくる」

「え、私も行くよ!」

「ううん、琴葉ちゃんは先に食べてて。ボクの分も食べていいから」

「え、ええー?」


 ごめん、琴葉ちゃん。


 今は優先すべきことがあるんだ。


 ボクの大事な家族を、探しに行かなきゃ。


 ――フウ、どこにいるんだ?

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