第11話 またまたピンチ到来⁉

 幸兄と話し始めてずいぶん時間が経った。

 一応、話したいことは話せた。


 さすがにこれ以上ここにいると廉斗さんに迷惑がかかっちゃうし、今日はひと段落着いたところで切り上げることにした。


 え?

 話って何のことか?


 もうすでにヒントは出てるよ。

 多分、もう気づいている人もいるかもしれないけど。


 ほら、結構前に「ピクニックとかしたいな」って話したじゃん?

 その話を今日したんだ。一応、サプライズ的なものにしたいし、万が一聞かれちゃったら困るから、ガーベラで話すことにした。 家に行けば誰かしらボクの周りにいるからね……。


 まあ、家がにぎやかなのはいいことだけどさ。


 いつするか、どこでするのか。

 結局ピクニックではなくなったんだけど、パーティーみたいにしてやるかってことになったんだ。

 会場はもちろん、ガーベラ!

 貸し切りの許可が出たから、ここで廉斗さん交えてパーティーを開く予定。何のパーティー? て言われても答えられないけど。


「廉斗さん、ありがとうございました」

「気にしなくていいよ、天音くん。ぜひまた来てくれ」


 ボクはもう一度ありがとうございますと口にして、ガーベラを出た。

 幸兄はまだ仕事が残っているからあと1時間後に帰ってくる。

 ガーベラは午後5時までの喫茶店だ。まあ、気まぐれでもう少し早くに閉店することもあるらしいけどね。


 ガーベラを出て、ボクは家とは違う方向に向かう。

 行き先は毎週のようにお世話になっているスーパーマーケット。


 今日は別に幸兄に頼まれているわけでもないんだけど、昨日どっかの誰かさんにお菓子食べられて、ボクの分がなくなっちゃったから買いに行く。

 まあ、それだけって言うのもあれだし、何か他によさそうなものがあれば買っていくけど。


 数分で目的地に着き、ボクはお菓子コーナーに行く。

 いつの間にか、大切に大切に食べてた個包装のチョコレートがなくなってたんだよね……。五個はあったと思うんだけど、昨日なくなってた。

 まあ、誰かはわかってるけどね。

 言うまでもない。


 お馴染みのパッケージを探して手にとり、ボクは他のコーナーもざっと見て回る。

 う~ん……醤油はこの間買ったばっかりだし、特に買わなきゃいけないものはなかったけど……。


 あ、せっかくだから幸兄にアイスでも買っていってあげるか。

 今日仕事中にも関わらずボクの話聞いてもらっちゃったし。廉斗さんにもまた何か持っていけたらいいなあ。

 お金は……うん、まだ今月始まったばっかり……でもないけど月末よりは余裕あるし、たまにはこういうのもいいよね。


 幸兄が好きな抹茶のカップアイスをひとつ、ボクはバニラをひとつ取って、そのままレジに向かった。


 会計が終わると、事前に持ってきてたバッグにチョコとアイスを突っ込んで、ボクは店を後にする。


 今日は蒸し暑いなあ……。

 最近涼しくなってきたと思ったのに。


 鈴虫の音が耳に心地よく響き、ボクは夕日が照らすアスファルトを歩く。

 この間フウたちと一緒に帰った時は短く感じたこの道も、一人だととても長く感じる。


 なんだか、歩いても歩いても家にたどり着けない気がする。

 そんなことはないと思うけどさ、なんか、そう思うくらいに長く感じるんだ。


 カツ、コツ、と靴がアスファルトに打ち付けられる音がする。


 人通りが少なく、シーンとしているここの道。

 毎日のようにこの道は歩いてはずなのに、全く知らない道にさえ思ってしまう。


 カツ、カツ、コツ……。


 ……足音が……。


 カツ、コツ、コツ、カツ……。


 ……増えてる……?


 気づいたときには、走り出していた。

 いつからっ?


 誰かはわからない。ふり返る前に走り出しちゃったから。

 相手と僕との距離はそこまでない気がする。せいぜいあっても10メートル……。


 相手の足音は途切れることなく続いている。

 ボクはまだ体力はあるけど……それよりも相手が誰なのか気になる……。


 今ふり返ったら距離を縮められちゃうし、ボクにできることは走ることと、考えること。


 そういえば前にもこんなようなことがあったよね。

 あれはたしか、一週間前に起こった。

 下校中にフウを狙った狐面が今みたいに追ってきた……。


 もしかして相手はあいつか……?

 ……もしくは、天の人たちか……。

 あいつ以外の天界警察っていう場合も考えられる。


 買い物の袋が走るのにジャマだ。

 まあ、タマゴとか割れそうなものは入っていないからいいけど……。

 そんなに買ってないから重くもないし。


 走り始めて三分ぐらいが経った頃。


 そこそこの速度で走り続けているため、さすがに疲れも出てくる。

 追手との間は縮まらないけど、相手は多分、ボクより体力があるだろう。


 どこか隠れられる場所はないかな……。撒けたら一番いいけど……せっかくだったら姿を覚えておきたい。


 そこからさらに一分ぐらいが経過した。

 呼吸も乱れ、肺が圧迫されてる気がする。


 相手はここぞとばかりに距離を詰めてきて……。


「天音っ!」


 突然、ぐん、と腕を強く引っ張られた。

 雨海くんだ。

 どうしてここに。


「たまたま」


 ボクの考えていることがまるで分っているみたいに、そう答えた雨海くん。

 ボクの腕を引っ張って、どんどんと人通りの少ないところへと進んでいく。

 まだ相手も追いかけてきていて、向こうの体力には驚かされる。


 そろそろ限界なんだけど……。


 誰もいない、細い道路に出て、雨海くんは走るをの止めた。


 え、このままだと捕まっちゃ――



「……狐の面なんて被ってないで、いつもの姿に戻ったら。父さん」



 追ってきていたのは、フウのときと同じ狐面のあいつ。

 雨海くんはくるりと振り返ってそいつを見て、そう言った。


 と、父さん……!?


 つ、つまりっ……。



 あ、あなたが天王さまですかっ!?!?

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