第7話 買い物にレッツゴー!

 フウと公園を出てから、ボクたちは家に向かう。

 さすがに家に帰ってるよね……。

 行きと帰りは同じ道だし、迷子ってことはないと思うけど……。


 無事に家に帰れていることを願いながら、ボクは夕日に照らされた道を歩いた。


 フウに天で過ごしていた時のことを聞いたり、小さい頃の思い出とかを聞いて家の前につく。


 あれ、なんか人影が一、二、三……四つ⁉

 近づいてみると、玄関の前で座ったり本を読んだりしている男子がいた。


「あー。おねーちゃんたちやっと帰ってきたー!」

「大丈夫でしたか? 突然いなくなられたので心配しました」


 雪良くんと出雲くんがボクたちに向かって声をあげる。

 晴玲くんも「心配したー! よかったー」とほっとした様子。


「あ……ごめん。ちょっと寄り道して来ちゃった……」


 フウがみんなにそう言って、あいつから逃げていたことはふせた。

 みんなが、フウが天界警察に追われていることを知っているのかはわからないけど。

 しっかりとは聞いていなくても、うっすら耳にしたことはあるのかもしれないし。


「あれ、そういえばどうして家の中に入ってないの?」

「カギ」

「あ、ごめん。そこまで考えてなかった」


 雨海くんが一言。

 ごめんっ! と頭を下げて謝ったら「気にしないでくださいよっ!」と出雲くんがあわててボクに声をかける。カギを急いでカバンから取り出し、ガチャガチャっと開けた。


「はー。ホントにごめん。次からは気をつけるね」


 みんなは「全然いいよ。気にしてないよ」と言ってくれ、みんなの優しさに涙腺が緩む。


「ねー、お買い物はー?」


 雪良くんの一言で、ボクははっと幸兄から頼まれていたお使いの用事を思い出す。

 今日の夕飯で使うんだった。

 急がないと……!


 すぐに準備を済ませて、ボクたちは再び外に出る。

 買い物には行かない雨海くんに留守番を任せることにした。

 そのうち幸兄も帰ってくると思うけどね。


「お買い物で何買うのー?」


 フウがボクの手元を覗き込みながら聞いてきた。

 ボクは手に持っているメモを見ながら答える。


「えっと、今日の夕飯で使う、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、しらたき……あ、豚肉も。あとは醤油が昨日終わっちゃったから醤油も買うし……えーっと……」

「ん、もしかして今日の夕飯は肉じゃがっ⁉」

「え、正解。どうしてわかったの」

「うーん、なんとなく」


 なんとなくでわかるもんなのかな……。

 まあ、早く買って帰ろ……。

 材料がないと作れない


 あ、まだ買うものあった!


 これはボクの生活の中で大切なものの一つだっ!

 幸兄から預けられたお金と別にしっかりお小遣いも持ってきたし、完ぺき。

 最近は特に減りが速いからなあ……。


 歩いて十分。

 毎週のように行っているスーパーマーケットが見えた。


 出雲くんがパパッとかごを用意してくれて、ボクはそれを受け取る。

 出雲くん、気が利く……!


 かごを持って、まずは野菜コーナーへ。


「ジャガイモとニンジンとタマネギだよ~」


 ちょうどメモを確認しようとしていたところで、雪良くんがメモを読み上げてくれた。ありがとう、と雪良くんに言って、ボクは野菜売り場を抜ける。

 次は……。


「しらたき!」


 フウが元気よく読み上げてくれる。

 オッケ、と言ってボクはしらたきを探す。


「天音ー。これでいいのかー?」

「あ、ちょうど探してた。ありがとう」


 しらたき片手にボクに声をかけたのは晴玲くん。

 この兄弟、みんな気が利くようだ。

 ホント助かる。


「次は豚肉かな」


 スムーズに買い物が進み、ボクはかごを持ってお肉売り場に向かう。


「天音おねーちゃんの家は豚肉なの? 僕たちの家は鶏肉だったよ!」

「そうだね。ボクの家では豚肉をよく使うかな。鶏肉ではあんまりやったことないね。鶏肉の方がよかった?」

「ううん! おいしそうだから食べてみたい!」

「それならよかった」


 そっか、肉じゃがって何のお肉でも合うからね……。

 ふんふん、と納得しながら雪良くんのとなりを歩く。


 お肉売り場に着いて、ボクは豚肉の入ったパックを取り、かごに入れる。

 かごにずしっと重みが加わり、ボクはかごを持つ手を変えた。

 それを見かねた出雲くんが、ボクの手からかごをさらっていく。


「これくらいおれにもやらせてください」


 んなっ。


 どきっと心臓が跳ねる。

 こ、これでも女子なんだからっ!

 こんなに気遣ってもらって平常心を保てるわけないでしょっ。


 せっかく出雲くんが言ってくれたので、ここは素直に出雲くんに任せることにする。


「あ、ああありがと」

「気にしないでくださいよ。おれだって手伝うことはできるだけ手伝いたいので」


 か、かんじゃった。

 あわあわとしているボクをよそに、出雲くんはボクに尋ねる。


「そういえば醤油――」

「天音ちゃん~! 醤油~!」


 ボクが醤油を売っている棚に行こうとしたら先回りされてた。

 フウが醤油を片手にボクの方を見る。


「これでいい~?」

「あ、もう一つサイズ小さいのでいいよ」


 特大サイズをかごに入れようとしていたので、慌ててフウを止める。

 さすがに醤油、こんなにいらないかな……。なくなったら買いにくればいいし。


「じゃ、これで会計行こうぜ」


 晴玲くんが先陣を切ってレジに向かおうとするのを出雲くんが首根っこを捕まえて止め、出雲くんがボクを振り返る。


「これで全部ですか? まだ買うものあるなら……」

「あ、そうだね、まだ買いたいものある」


 大事なものを忘れてた。

 ボクは飲料コーナーに行き、お目当てのものを見つける。


「よかった、売り切れてなかった……」


 ほとんどこれを目当てに来たといっても過言ではない。

 小さめのリンゴジュースと大きめのリンゴジュースをそれぞれ一本ずつ手にとり、ボクはかごに入れる。


「ごめん、結構重いよね?」

「おれだって男ですよ?」


 そ、それは知ってる。


「ご、ごめん、すぐ会計行くね!」


 さすがにずっと持たせているのはボクとしても心苦しい。

 早く会計を済ませなければ。


 レジに並んで手際よく会計を済ませたボクたちは、スーパーマーケットの外に出て家に向かって歩きはじめる。


 そんな時、ボクのスマホに一つの通知が届いた。

 えーっと……あ、琴葉ちゃん⁉

 なになに。……土曜日に一緒に買い物行こう……。

 一緒に買い物⁉

 そういえば琴葉ちゃんの弟くんの誕生日プレゼントがどーたらこーたら言ってたな……。

 続きを読むと確かに、琴葉ちゃんの弟くんが今月誕生日だからプレゼント選びを手伝ってほしい、とのこと。

 男の子のほしいものなんてわからない、とボクに助けを求めてきた。

 なんでボク……?

 ボクもわからないよ……?


 でもさすがにここで断るのも申し訳ないし、ボクも琴葉ちゃんに助けられたことはたくさんあるから、一応一緒についていくことにした。


 スマホを操作し終え、バッグにしまうと、出雲くんにずっと荷物を持たせていたことに気づく。

 ボクが持とうとしたけど、笑顔であっさりと断られてしまう。

 結局帰りも出雲くんに持たさせてしまった。

 ごめんね……!


 そんなボクは、出雲くんのとなりで買ったばかりの小さめのリンゴジュースを飲もうとしていた。

 ストローを出して、プスッとさす。

 リンゴジュースってホント飽きない。

 うん……やっぱりおいしい。

 おいしいけど、となりの出雲くんに申し訳ないっ……。


「そんなの気にしなくていいですよ。おれだって全員の荷物持っているわけではないですし。天音さんは特別です」


 ぶしゅううぅぅっっ!!


 出雲くんのトンデモ発言に思わずボクの右手に力が入る。

 右手。リンゴジュースを持っていた手。


 見事にリンゴジュースは空を舞い、ボクの髪を濡らした。

 髪から滴るリンゴジュースに、ボクは呆然とすることしかできなかった。

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