第4話 ウワサの転校生
月曜日の朝。
ボクが長年通い続けている
小中一貫校でボクはこの学園に六年間半通い続けていることになる。
今は中学一年生だから……。
「行くよー!」
フウたち五人に声をかけて、ボクたちはドタバタと準備をする。
そう、この五人、ボクが通う向日葵学園に通うことになったのだ。
どうやって制服と通学カバンを調達したのかわからないけど、どうやら幸兄が手続きを済ませてくれたみたい?
優秀すぎる。ボクの兄。
「いってきまーす」
ボクが幸兄に声をかけると、幸兄は「いってらっしゃーい」と明るく送ってくれた。
幸兄は『ガーベラ』っていう喫茶店で働いている。
家からは歩いて十数分。
店長さんの
「みんな来てる? えっと、フウいるでしょ、晴玲くんもいる、雨海くんもいる、出雲くんもいるし、雪良くんもいるね?」
ついてきていることにほっと安心しつつ、ボクはフウの横を歩く。
「フウって十二歳だったよね。小六?」
ボクの言いたいことが伝わったのか、フウは質問に答えてくれる。
「そうだよー。だから学校では天音ちゃんと分かれちゃうね。あ、でもハレとアメは中一だからもしかしたら天音ちゃんと一緒のクラスかも。クモはわたしと同じ小六で、ユキは小五だよー」
晴玲くんと雨海くんは歳が一緒ってことだよね?
双子とかなのかな?
向日葵学園の校門の前まで来ると、ここから初等部と中等部で分かれてしまう。
「じゃーねー!」
「うん、下校はまたここに集合だよ」
幸兄からは一緒に帰ってこいって言われてるから、一番わかりやすい校門のところで待ち合わせにする。
晴玲くんと雨海くんは職員室に呼ばれていたようで、二人とも行ってしまった。
一年の教室がある三階の廊下に着くと、その廊下はとある話でもちきりだった。
「ねーね、知ってる? イケメンの転校性が四人来るらしいよ!」
「え、もう一人超美少女が来るって聞いたよ」
「うんうん、わたしたちのクラスにも来るって噂だよね!」
「みんなアイドルみたいにカッコいいの! 同じクラスだったら幸せすぎる!」
……。
転校生……。
もうウワサは広まっているのか……。
もちろんその転校生というのはあの五人のことだろう。
どこからそんなウワサを……。
女子の情報網には毎回驚かされる。
ボクも一応女子だけどね……。
教室に入っても、そのウワサであふれている。
いつもの五倍くらいにぎやかな教室で、ボクは静かに準備をする。
準備が終わって読書をしようとしたけど、周りの話し声が気になってどうしても集中できなかった。
がやがやとにぎわう教室は、担任の先生が来たことによって静かになる。
「はーい、皆さんはもう知っていると思うけど、転校生がこの学年に来ることになり、さらに私たちのクラスに入ることになりました。転校生を紹介しますね」
その瞬間、静かになった教室はまた騒がしくなる。
ボクも思わず「え」と声を漏らした。
まさかこのクラスに来るなんて。
晴玲くんか雨海くんか。
どっちだろう……。
「え、やっぱり本当だったんだ!」
「同じクラス⁉ どんな子だろー!」
主に女子が近くの友達としゃべり始め、先生がパンパンと手を叩いて落ち着かせた。
「はい、雨海くん。中へどうぞ」
あ、雨海くんだったんだ……。
同じクラスになったし少しは仲良くなれるかな……?
言われるがままに、前のドアから黒板の前まで下を向いて歩いてくる雨海くん。
ボクの席は後ろの方だからもともとよく見えないけど、黒いマスクで顔を覆っていて、表情が読み取れない。
「じゃあ自己紹介してくれる? 名前と、好きなこととか。なんでもいいですよ」
先生に言われて、彼は少しだけ顔を上げる。
でも長い前髪と黒いマスクが顔を隠していて、顔が見えないことに変わりはない。
「……天神 雨海。好きなことは、」
マスクに手を当て、ちょっと上に引き上げる。
彼は少し考えるようなしぐさをしてから、ボソッと言った。
「……とくにない」
え、ないの。
好きなことがないってどういうこと……?
みんな一つや二つあるもんじゃないの?
先生は困ったようにしながらも、席を指定した。
「えーっと、空いている席は……」
も、もしかして……。
先生が教室を見渡し、あるところを見て「あそこ空いてるね」と言う。
指さされたところは、ボクの予想とぴったり当たった……。
――そう、ボクの隣。
もともとボクの左側は誰もいない。
でも別に隣がいないのが嫌と言うわけでもなかったし、グループ活動のときも、前の二人と一緒にやらせてもらっていたから、不自由はしていない。
誰もいなかった左側の机に、彼が静かに座った。
ボクは特に何も気にせずに彼を見て、言葉を失う。
そんなボクをよそに、クラスの女子たちはみんな彼を見ている。
「天音ちゃんいいなー! 私も隣がよかったー!」
「席替えとかしたら隣になれるかなあ……」
「席は近くないけど、同じクラスにいるんだよ⁉ わがまま言っちゃだめだよ」
羨ましい、と次々に言う女子たちの視線がボクに注がれ、ボクはあたふたするのみ。先生が「朝の学活始めるよー。日直は誰ですか~?」と助け船を出してくれたおかげで、その場はおさまった。
朝の学活が終わり、廊下などがガヤガヤとにぎわってきた。
そのにぎわいはいつも以上で、思わずボクもその中心にいる人物を見る。
そこにいたのは、もちろん雨海くん。
雨海くんの隣には似たようなシルエットが……。
あ、もしかして晴玲くん?
ひょこっと背伸びをして、わたしはその人物を見る。
雨海くんと同じ紺色の髪の、背丈もほとんど同じくらいの男子。
やっぱり晴玲くんだ。
「あ、
「琴葉ちゃん」
とにかく頭がよくて、学年トップ!
でもそんな固いイメージとかなくて、それどころかめっちゃ明るくていい子なんだ。ちなみにボクとは初等部のころからずっと一緒のクラス。
「雨海くんと双子らしいよ、あの子」
「えっ」
ふ、双子……⁉
こそっと耳元でささやかれた言葉に、ボクは少し驚き、数秒後に納得する。
兄弟なのは知ってたけど、双子ってことは知らなかった……。
確かに言われてみれば、天神兄弟の中でもこの二人は特に似ている。
性格は正反対だけど、顔立ちが少し似ているような……。
でも全然雰囲気違うなあ……。
転校してきて一時間もたたないうちに、この双子のことは中等部はもちろん、初等部にも広まった。
「中等部に双子アイドルがいる」と。
そして、中等部には初等部からあるウワサが届いた。
「初等部にイケメン兄弟と伝説級の超美少女がいる」と。
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