第2話 少年たちの秘密

 ……この状況は一体どういう……?

 四人の男子はどこから来たんだ……?


 窓も空いてなかったし、玄関もフウが入った時に閉めた。

 空いているところはどこにもなかったはずなんだけど……。


 目の前には男子が四人にフウが立っている。

 一応ボクの部屋なんだけど……。


 説明を求めるため、ボクはフウをじっと見つめる。


「あー。突然ごめんね。本当は誰にも言うなって言われてるんだけど、君は特別ね」


 誰にも言えない秘密なのか……?

 怖すぎる。


「ハレとアメとクモとユキはベッドに座ってて。わたしがここは説明するから」と、四人の男子に言って、フウもベッドの空いているところに座る。


 え、っと……。

 ここ、誰の部屋だっけ……?


 ボクの部屋だったような気がするんだけど……。

 ベッドまで完全に占領されている状況を見て、ボクはあっけにとられる。


「の、前に、リンゴジュースをこの子たちにも用意してあげてくんない?」

「……」


 誰がどこの誰かもわからないやつにリンゴジュースをあげるか、と思ったけど、何も出さないわけにはいかないので、戸棚から色違いのグラスを4つ取り出す。

 お母さんがこの家にいたころは、お母さんの友達がたくさん来ていたからたくさんグラスがあるんだよね。

 あ、今はお母さんとお父さんは都会の方でお仕事が忙しいみたいで、別々で暮らしている。

 別にボクはそれを仕方ないことだと思ってるし、家にはお兄ちゃんがいてくれるから別に生活に困っているわけでもない。

 また一か月後には帰ってくるって言ってたけど……。


 冷蔵庫を開け、冷えたリンゴジュースを手にし、グラスに注いだ。


 ああ、ボクのリンゴジュースが……。せっかく幸兄こうにいに買ってもらったのに……。


 あ、幸兄っていうのはボクのお兄ちゃんのこと。歳はだいぶ離れてて、今年で幸兄は23歳。料理もできて、家事もいつもやってくれて、頭もいいし、自慢のお兄ちゃんだ。


 さすがに四つも手で持っていけなかったので、ボクはお盆にのせて持っていく。


 ドアの目の前に立つと、ボクの部屋から話し声が聞こえてきた。


「……でも、さすがに……」

「いや、あの子なら大丈夫ですよ。きっと……」

「本当に大丈夫なの?」


 ……なんか空気が重たそう……。

 入るのがすごく気まずい……。

 いつ入ろうかとタイミングを計っているうちに、お盆の角がドアに当たったみたいで、コツン、と小さな音を立てた。


 あ、ヤバッ……。

 ここにいることバレちゃうじゃん……!


 予想通り、フウがボクの部屋のドアを開けて、「あれ、いたの」とボクを見る。


「……なーんだ、いるなら早く入って来てくれればよかったのに」


 ちょうど、お盆を持っていたせいでドアを開けられなかったのでタイミングが良かった。ドアを開けてくれたフウに感謝しつつ、ボクは机に四つのグラスを置いた。


「どうぞ。リンゴジュースだけど……」


「サンキュー!」

「……」

「ありがとうございます」

「ありがとー!」


 四人それぞれ、違う反応を示した。

 無口の子も……何も言わないところを見ると、とりあえず飲めないことはないのかな?


 まあ、口に合ったようでよかった……。

 けど、まだ問題は残る。


「あの……君たち、誰?」


 やっと聞ける……。

 が、そこでボクの声にかぶせるように玄関のドアを開ける音がした。


「ただいまー」


 ぎ、ぎくっ。

 幸兄が帰ってきちゃった……!

 フウの靴、玄関においたままだったよね……?

 どうか気づきませんように……!


 目でフウたちに「帰れ」と訴える。

 フウ プラス四人の男子は顔を見合わせ、四人の男子は窓のカギを開けようとする。

 

 え、まさか窓から出ていくつもり?


 たしかに玄関から出ていっちゃったらお兄ちゃんにバレるリスクが高いけど、かといって窓から出るのは危険すぎる。


「ま、待ってよ。さすがに窓からは危険じゃ――」

「心配ないよ。靴は明日この時間に取りに来るねー!」


 フウがそう言って四人の男子と一緒に窓の外へと消えていった。

 窓に駆け寄り、身を乗り出して下を見る。


 あれ、もういない。

 早いな……。


 下にいないということは、少なくともケガはせずにこの場を離れた……ということか。


 ほっと安心しながら、ボクは改めて部屋を見まわす。


 ……まずはこの片付けからだな……。

 六つのグラスをどう言い訳するかを考えながら、ボクはお盆にグラスを並べて、キッチンへと向かった。


 ―――――


「これ」


 次の日、ビニール袋に入れた靴をフウに渡す。

 昨日、幸兄にさりげなくフウの靴のことを聞いてみたけど、なんにも気にならなかったみたい。

「なんのこと?」って言われちゃった。

 まあバレてないならよかった。


「ありがとー! 昨日はごめんね、あの子たちが急に来ちゃって」


 あの子たち、というのは昨日の四人の男子で間違いないだろう。

 フウとは何かつながりがあるのか……?


「あの四人は誰なの?」

「あー。ちょっと説明すると長くなるかなあ……」


 やっぱりボクはなんか面倒なところに首を突っ込んでしまったらしい。

 面倒ごとは嫌いなんだけどなあ……。

 フウが来る前に用意しておいたリンゴジュースを渡し、ボクは個包装になっているチョコレートを口に入れた。


「やった、リンゴジュースだ! これおいしいー!」

「フウとあの四人のせいでボクの分がなくなってるんだけど……」

「まあまあ、気にしない!」

「ボクは気にする」


 ボクはため息をついて、自分用に用意したリンゴジュースを飲んだ。

 フウはボクのベッドにぼふっと座る。

 ボクのベッドだよ? ボクの。

 フウのものじゃないからね?


 ゴロン、と大の字になって、天井を見上げるフウ。

 シーンとした気まずい空気が流れ、ボクは何か言おうと口を開く。

 でもその前にフウがポツリとつぶやいた。


「わたしたちはそらから来た。雲の向こうの、もう一つの世界から」


 もう一つの、世界……。


 そんなのウソだろって言いたいけど、真剣な表情のフウと突然現れた四人の男子を見ているから、何とも言えない。


「来た、というよりは、わたしは逃げてきた……かな」


 逃げてきた……?

 どういうこと?

 しかも『わたしは』ってことはあの男子たちは違うってこと?


「わたしはあの四人の幼なじみって感じ。あの四人は――」


 フウは起き上がって、ボクを見た。

 海のような真っ青な瞳はがボクをとらえ、その眼差しにごくっとツバをのむ。


「——天気を司る、神様なんだ」


 か、神様っ……。

 あの四人、ボクと同じ年くらいじゃなかった?

 同年代の子が、神様っ……!


 しかも、天気を司るって……。

 ボクはあの四人の顔を思い浮かべる。


 全員、誰もが憧れるほどの美形だ。

 活発で、ナツに策向日葵のように元気な男子。

 前髪で目元を隠し、黒マスクが印象的な男子。

 ほんわかしてて、みんなをまとめるのが上手そうな男子。

 子犬みたいにかわいくて、明るい笑顔が似合う男子。


「……あの四人が、神様……⁉」

「そう、神様。天神てんじんさまって呼ばれてる」


 天神、さま……。


「あはは、天音くん驚いてる。ま、驚くなって言うほうが無理か。ははっ」


 いや、逆に驚かない人いるの、コレ。

 突然現れた男子が神様なんて言われたらみんな驚くでしょ。

 ボク、まだ冷静なほうだと思うよ。


 あと、もう一つ気になることが……。


「フウ、ボクは男じゃないんだけど……」

「え、えっえええええーーーーーー‼」


 そんなに驚かれると騙していたみたいで申し訳なくなる。

 でも勝手に誤解したのはそっちだからね!


「じゃ、じゃあ……」

「なに?」

「天音……?」

「そうだけど」


 間違えられやすいのかなあ?

 一人称は『ボク』だけど、これでもれっきとした女子だよ?

 髪も短いし、たしかに男子だと言われたら男子に見えるのかもしれないな。


 大事なことだからもう一度言うけど、ボクは女子だ。

 勘違いしないでほしい。

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