天神さまがやってきました⁉
つきレモン
第1話 天から来た謎の美少女⁉
生暖かい風が吹き、紅葉に染まる準備をしている木々の葉を揺らす。
空には秋を象徴するうろこ雲。十月に入り、一層秋の色が深まったころ。
何も変わらないとある一つの家に、チャイムが鳴った。
――ピーンポーン
ん?
こんな時間帯に誰だろう?
あ、今日の夕方荷物届くって言ってたな。
それかな……。
確かにトラックの音したし……。
玄関に行くと、靴を履いて少し重たいドアを開ける。
「はーい、どちら様で、」
「ごめんなさーい! 助けてっ!」
え……?
荷物じゃないのか……?
前を見れば、もうトラックは走り去っていた。
どうやら目当てはご近所さんだったらしい。
今となってはそれはどうでもいい。
それよりも……。
目の前にはボクと同じくらいの背丈のひとりの女の子。
腰まで伸ばした水色の髪をおろしていて、瞳の色も水色。
空のような水色の瞳に太陽の光が反射して、キラキラと光っている。
その目は間違いなくボクに向いていて、そんなボクは静かに考える。
誰だ……?
ボク、
小学生……か……?
仮に小学生だとして、どうしてボクの家に?
「助けて」って言われても……。
何かから逃げているようにも見えるけど……。
「い、家に入れさせて! 少しでいいからー!」
その場に膝をつき……まさかの土下座⁉
「ちょっと、やめてよ。ボクがイジメているみたいじゃん」
手を貸して立ち上らせると、ボクはため息をつく。
仕方ないな……。
困っているみたいだし、このまま放っておくのは……。
まあ、両親も今日はいないし、別に少しなら……。
数秒の沈黙の後、ボクは玄関を指す。
「入りなよ。困ってるんでしょ」
ボクはもう一度ため息をつくと、彼女をチラッと見る。
彼女は泣きそうな顔をしていたが、やがて……。
その顔は、目に見てわかるほどにぱあっと明るくなり、花開くような笑顔へと変えた。
ボクは彼女が玄関の中に入ったのを確認して、玄関のドアを閉めた。
ひとまず僕の部屋に案内し、ボクは彼女に出すための飲み物を用意する。
何がいいかと迷った挙句、リンゴジュースにすることにした。
水とかお茶の方がよかったかな……。
ボクの分もついでに用意して、ボクの部屋へと向かう。
ドアを開けると、ベッドに座った彼女がボクの方を向いた。
「ん。リンゴジュースだけど、よかったら」
「わ、ありがとう! 全然いいよ!」
笑顔でグラスを受け取り、口に運ぶ彼女。
少し経って、落ち着いた様子なので、ボクは本題に入る。
「で、どうしたの」
ボクは勉強机の前においてある椅子に座り、背もたれにもたれかかる。
リンゴジュースと一緒に持ってきたグミを彼女に渡し、彼女はそれを口に放り込む。
「ん、おいしい! あれ、これもリンゴ味?」
「……そうだけど悪い? で、どうしたの」
なかなか話しださない彼女を見て、ボクは質問を変える。
「じゃ、名前は? ちなみにボクは天龍 天音」
「えーっと、わたしはフウ。
フウ……。
「何歳なの?」
「十二歳だよ。フツーの中学生!」
「ボクの一つ下か」
そしてまた沈黙に包まれる。
カランカラン、とリンゴジュースの中に入った氷が涼しげな音を立てる。
ボクは少しリンゴジュースを飲んでから、一番聞きたいことをもう一度たずねた。
「フウ、なんか急いでいたみたいだけど……」
「あっ、なんでもないの、大丈夫、なんでもないっ」
……必死。
何かをごまかそうとしているのは、誰が見てもわかるだろう。
大丈夫って……だったらどうしてボクに助けを求めたんだ?
まあ、言いたくなさそうだから聞かないけど。
「どうする? ボクはいつまででもいいけど、いつまでここにいる?」
「え」
……ボク何か変なこと言った?
「どうして何も聞かないの? 普通はもっと聞きたいことあるでしょう?」
あーなるほど。
「別にボクは言いたくないことを聞き出す趣味なんてないよ。言いたくないことは言わなきゃいい」
それを聞いて驚いたように目を開いたフウ。
じゃあ、と言ってフウはボクに質問をしてくる。
「……どうしてわたしを助けてくれたの」
「うーん……困ってそうだったから、かな」
その通りだった。
ボクはお母さんに「困っている人がいたら助けてあげてあげなさい」と教わった。
お母さんの口癖でもある。
ボクはそれを実行しただけだ。
「……はは、あははっ!」
どうした……?
急に笑い出した彼女に、ボクは戸惑いを隠せない。
「ははっ。いやあ、天音くん、変わってるね! あははっ、普通の人だったら見ず知らずの人を助けたりなんかしないよ」
……変わってる?
けなされているのか、ボクは。
よくわからないけど、誉め言葉として受けとっておこう。
「……で、いつまでいるんだ。別にいつでもいいけど」
「あーっと……」
窓の外をのぞき込み、うーん、と悩みこんでしまうフウ。
やっぱり何かに追われていた……とか?
「ちょっとまだ心配だから、あと十分だけでもここにいさせてくれないかな?」
「いいけど。心配って……?」
まるで言ってはいけないようなことを言ったかのように、彼女はハッと口を押さえる。
……すでに時遅し。
「あーもう仕方ないっ。助けてくれたわけだし、わたしの秘密教えてあげる」
いや、なんの話を始めるつもりだ、コイツ……?
もしかしたらヤバいところに首を突っ込んでしまったのかもしれない……。
フウが次に言うことに身構えていると……。
「ちょっとその前に、リンゴジュースお代わりくれない?」
「っ、なんだよ」
せっかく緊張してたのに……この緊張返せよ……。
フウに対して少し怒りがわく。
でも秘密とやらも気になるし、仕方ない。
グラスを片手に持ってキッチンに行き、ボクは冷蔵庫からリンゴジュースを取り出して、お代わりを注ぐ。
……ボクの大好きなリンゴジュースが……。
それをもってボクの部屋に行き、待っていたフウに無言で渡す。
フウはゴクッと一口飲むと、ボクの方を真剣な目で見る。
ボクに本当にそれを聞く覚悟があるのかと試されている気がして、ボクはそらさないようにまっすぐに見かえす。
十秒ぐらい無言の時間が続いて……。
その沈黙を、フウが破った。
「……わたしたち、
は……?
フウは何を言ってるんだ……?
しかも、たちって……?
一陣の風が吹く。
徐々にそれは強くなっていって……。
思わず目をつぶって、腕で目を覆う。
数十秒後、おさまったと思って腕をどかしたら……。
元気で明るそうな男子、黒マスクを身に着けている男子、困ったような笑顔を浮かべる男子、不安そうな顔をする男子、合計四人の男子がいた。
その真ん中には、この状況をどう説明しようかと悩んでいるフウの姿があった。
……ボクの部屋では何が起こっているんだ……?
その中でも恐らく、一番ボクが困っていただろう。
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