フリイタア

識織しの木

フリイタア

「学生か」問う者たちの目が声がおまえは正しくないと貫く


雷鳴の気配を携えて雲はちっぽけな生き物を置いていく


いつの間に買ったか友の中古車はもう既にその子のにおいして


花束の名はしあわせと言う声が式場外に染み出してゆく


22時不穏な入道雲のような音を響かせ2輪車の群れ


街頭に惑わされたり蛾のひとつ遠く赤子か猫のなきごえ


本たちの詰まったダンボールを積んで六畳一間を城としている


白い壁に一筋黒く線が延び大地の揺れを栄養にして


揺れたのは風の仕業かカーテンを揺らす誰かはいないだろうか


風通る玄関夏は居間となりあれはテレビがあるだけの部屋


底見えぬ緑茶の粉もなくなって木製スプンですくえるものは


卓上のタコ焼き器熱源となり胡爪の塩漬けが減ってゆく


皮を向き種を除いてまっぷたつレモンハイに沈められた枇杷


空グラス夜のこちらをカーテンの隙間からきみはそっと見ていた


乾電池取り替えてない人形はあの頃みたく喋るだろうか


幾重にも張り巡らされ蜘蛛の巣は開かずの窓に朝を教えず


求人のチラシの上を蜘蛛がゆきいつの間にやらひとりになった


コンクリートの階段に羽のある羽ばたかない虫が落ちている


篠を突くこの大雨をアスファルトおまえに飲み込む力はあるか


「正」の字の上に「非」の字の影が差すどちらも別に正しくはない


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