第3話

無線を聞いたアケミが驚愕の表情で振り向いた。

ともに無線を聞いていた佐藤はイライラを抑えきれず感情のままに叫んだ。

「だから言ったんだ!アイツでは危険だと。あれほど、私が」

「申し訳ありません」

アケミは深々と頭を下げた。

ここ最近危なっかしい屁をマコトが垂れているのを佐藤は見逃してなかった。

訓練で、やたら水っぽい音が増えていたマコトを呼んで注意をしたことがあったのだ。


「マコト、お前少しやり過ぎてはいないか?さっきからピチピチ言って出ちゃってるんじゃないのか?」

マコトは緊張の面持ちでありながらも問題ない事を強調した。

「いえ、全てにおいて万全です。問題ありません!」

佐藤は危うい屁を垂れるマコトを今回のミッションから外そうと考えた。

しかし、アケミはマコトを支持した。

「大丈夫ですマコト君なら。今までも一度もミスをすることなくミッションをこなしています。より高みを目指し頑張る彼を信じてくれませんか?」

佐藤はアケミにそう言われて自分の直感を曲げてしまったのだった。

しかし万が一に備え、補助という名のもと、見張りとしてサチコを付けたのだった。

まさか本当に結果が出てしまったことに佐藤は頭を抱えていた。


その時、職員が青ざめた顔して駆け込んできて叫んだ。

「所長!当局がこちらに向かってきています!」

佐藤もアケミも青ざめて視線が交差する中、急いでノートパソコンを閉じて脇に抱え佐藤は呟いた。

「終わりだ!もう全部終わりだよ!」

アケミは何も言えず、涙を浮かべながら持てるだけの荷物を手に持った。

二人は建物から出るとどこに行くべきか定まらぬ中であったが、とりあえず思いつく方向に歩き出していた。

しばらくすると佐藤は冷静さを取り戻してアケミに尋ねた。

「あいつは戻ってこないぞ。それでもまだあいつを待つのか?」

アケミは一瞬ドキッとしたが、俯きながら答えた。

「彼なら、きっと・・・」

佐藤は呆れる様にソッポを向きながら言った。

「あいつの事は忘れて俺と一緒に行かないか?もう一度やり直したいんだ」

アケミは涙を流しながら答えた。

「・・・ごめんなさい」

佐藤も涙が零れそうになったが、上を向くと笑顔になってアケミに伝えた。

「わかった。お前たちのことは陰ながら応援させていただくよ。それじゃあここでお別れだ。幸運を」

アケミは涙に濡れる顔を上げ、佐藤を見ると精一杯の声で言った。

「幸運を」

佐藤はそのまま前を向くと歩みを進め、もう二度と振り返ることはなかった。

アケミはこれからの人生を決意していた。

(まず男性用下着とズボン。いや、上着もきっと汚れているわ。靴も靴下も全て一式購入して四ツ谷駅に行こう。そしてもう一度、一からやり直すの。彼と一緒にもう一度。だってあんな凄い屁を垂れられる人だもの何も怖いものなんてない。必ずこの世界を変えてみせる。私達で必ず)


この世界はいつも間違った方向に進んで行ってしまう。

例え誰かがそれに気づいて進む方向を正そうとしても、一度動いてしまった大局を動かすことは決して容易いものではない。

時に命を懸けて戦っても、何の意味もなさないことはザラだ。


だが、きっとどこかでその波動に気づき、心の中に小さな光を灯す者が出てくることだろう。

だから願い続けるのかもしれない。


どうか、どうか、全ての電車とエレベーターにトイレを。

どうか、どうか、人口過密の解消を。

どうか、どうか、ストレスの無い世界を・・・



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テロリスト 遠藤 @endoTomorrow

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