宝石占い

船越麻央

さて開運宝石は……

 わたしは海へ行こうと思った。



 その日わたしはある小さな宝石店を訪れていた。ただし普通の宝石店ではない。店内に無料の占いコーナーがあるのだ。「宝石占い」である。

 基本的にはいわゆる「星占い」、西洋占星術で占う。だがその店の占い師はそれだけでなく、誕生石、一般宝石を取り入れての開運占いをしてくれるそうだ。よく当たると評判なのだが、ほとんど宣伝をしていない。わたしもクチコミで知ってやって来た。

 わたしは店員さんに「宝石占い」を申し込み、占いコーナーに案内された。イスとテーブルが置いてあり占い師らしき女性が座っていた。


「それでは生年月日を教えてください」

 占い師は金髪碧眼の美女だった。まだ若い。二十代前半だろうか。


「なるほど、牡牛座ですね。守護星は愛の星、金星ですが乙女座的な性格がプラスされています」

 わたしの生年月日をきいた占い師はスラスラと答える。


 女性占い師は、わたしの性格、愛情運、金運、健康運を次々と語ってくれた。やはり評判通りだ。思い当たることばかりである。そしていよいよ本題に入ってきた。


「牡牛座の誕生石はエメラルドとヒスイ。幸運と愛情を意味します」

「あ、あの実は彼とのことをお聞きしたいんです」

 わたしは思いきってたずねた。

「なるほど。まず開運宝石は、サファイア、猫目石あるいは虎目石です。恋の喜びやきっかけが生じます。それと……彼との関係に進展を望むなら……ガーネット、ホワイトジルコンがおすすめ」

 ここで初めて女性占い師は微笑んだ。


 わたしは図々しいと思ったがさらに食い下がった。彼の生年月日を伝え開運宝石を聞き出した。

 彼の星座は射手座。根は悪い人ではないのだが自由奔放なところがあって……。わたしは彼に開運宝石のアクセサリーをプレゼントするつもりだった。


 射手座の彼の誕生石は、トルコ石、瑠璃石。そして肝心の開運宝石は……メノー、サードニックス。魔除けになるらしい。そしてダイヤは好きな人と永く交際できるようになるそうだ。


「ダイヤか~」

 わたしは思わず頭を抱えてしまった。

「大丈夫よ、彼にプレゼントしたいんでしょ。このお店相談にのってくれるわよ。わたしにまかせて」


 女性占い師は立ち上がって、売り場の男性店員さんのところに行った。何か言葉を交わした後戻ってきてニッコリと笑った。

「話はつけたわ。心配しないで」


 彼女はわたしを売り場に連れていくと、親身になって商品を選んでくれた。わたしはちょっと恥ずかしかったが、だいたいの予算を伝えた。

 彼女はわたしが選んだ商品を男性店員さんに渡した。

「これとこれとこれとこれ、全部でこの値段でお願い」

「ええっ! ちょ、ちょっと待ってくださいよ~ほんとにいいんですか~」

「いいからお願いね」


 相当強引であった。どうやらこの宝石店、金髪碧眼の美人占い師がオーナーらしい。損得抜きでやっているとしか思えない。わたしは彼女に感謝した。


「いいから、いいから。二人で海にでも行って、彼にプレゼントを渡すといいわ」

 女性占い師はウインクして言った。

「グッドラック!」



わたしは海へ行こうと思った。




 

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