テープ屋さん

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

「テープ屋さん?」

テープだけでお店が運営できるのだろうか?テープなんて別に欲しくはないが私は冷やかしがてら入ることにした。


「いらっしゃいませ」

くるんと長い髭にシルクハットに蝶ネクタイと胡散臭そうな店員が私の目の前に立っている。近い、胸が当たっている。


 私は店内を色々周ってみるが別に何も面白くはなかった。

「どのようなテープを探していますでしょうか?」

手を合わせスリスリしながら店員が聞いてきた。私は意地悪そうな顔をして

「おもしろいテープ」

と言ってやった。私は今日吹き飛ばされそうになって危なかったのでイライラしていた。ここで憂さ晴らししようと思った。


「はい、ございますよ~。少々お待ちください」

そう言うと店員は裏の方へ行き、太った男を連れだしてきた。そして太った男は変な踊りをした。私は笑ってしまった。

「いかがでしょうか?」

私は腹を抑えながら答えた。

「いや、これはおもしろいテープじゃなくておもしろいデーブでしょ!」

「ノンノンノン」

店員はその見た目なら言ってもいいと思っているのか随分と失礼に返事した。


 太った男は鼻を指で押さえ、フンっとした。すると中からテープが鼻水でキラキラ輝いていた。

「いや、これはおもしろいデーブから出たテープであっておもしろいテープではありません」

事実これはおもしろくなかった。


「これは失礼しました。」

店員は太った男と私を残して裏の方へと入っていった。太った男はまた変な踊りをしてくれた。私はまた笑った。

「お待たせしました~」

店員はキョンシーを連れて戻って来た。キョンシーがぴょんぴょんと跳ねている。さっきまで笑っていたがなんか私は冷めた。


 すると店員はキョンシーのキョンシーたる部分のお札を剥がし、その裏を見せてくれた。それはセロハンテープを丸くボールにしたものが貼りついていて、これでお札を貼っていたのだ。


 「確かに、テープの使い方はおもしろいけど、それはテープそのものがおもしろい訳ではないじゃないの?」

「そうですね・・・・・・」

店員は困っていた。もういいかと私は帰ろうとした。

「ちょっと待ってくださいお客様!」

また近くにやって来て胸が当たっている。もう帰る。店の出口まで来た時、なにかヒュルルという音がした。すると黒い空間が目の前に現れた。次元の裂け目だ!


 私はさっきも次元の裂け目に吸い込まれそうになった。そして今も、ブオーンという吸引力により私は吸い込まれそうになっているが、それを店員が手をつなぎその後ろにおもしろいデーブとキョンシーが引っ張っていた。


 「た、助けて~!」

髪がボサボサになり不愉快だ。店員はポッケからテープを取り出した。

「このテープは次元の裂け目用なんですがいかがですか?おもしろくはないですよね」

「そんなことどうでもいいから、早くテープでふさいでよ!」

「じゃあお買い上げでよろしいですか?」

「ハァ?あんた今そんなこと言ってる場合じゃ!」

「と言ってもこちら売り物でして~」

ああムカつくけど、私はスマホを取り出し決済した。

「毎度ありがとうございます。」

と言ってテープを私に渡した。私はテープで次元の裂け目を塞ぎ髪がボサボサのまま店を出た。スマホを見るとあのテープの値段が家賃ぐらいあった。パチーンという音が聞こえる。おそらくあの3人がハイタッチした音だ。あのヒュルルは次元の裂け目を結んだ紐を外した音なんだ。


 ブオーンという音がし、振り返るとさっきの店はなくなっていた。

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テープ屋さん 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615

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