第2話
「なっ……なによ!」
彼の発言とそれ以前に腹が立っていたのも相まってつい睨んでしまった事で怒らせてしまったのか、無表情で隣に座ってきた。
しかし、私の予想を否定するように彼は言った。
「気にしないで良いから。何もしないし」
「なら──」
「ただ泣いてるやつを1人で置いてけないだろ、普通。少なくともオレには無理だから」
「……隙を狙ったナンパ?」
「修学旅行中じゃなくてもしねえよ」
制服を着てるのはそれが理由か。
あれ?ならどうして1人でベンチに座ってるんだろう。
見たところ体調が悪いって感じてもないし。
ん?周囲を気にしてる……そっか、かくれんぼでもしてるのか。わざわざこんなところに来てまでしなくてもいいのに。
「私は大丈夫だから、早くどこかに隠れたら?」
「え?あー、そうだな。見つかると面倒だし」
そう言って立ち上がり彼は少々早足気味に歩き出した──が、直ぐに立ち止まり不思議そうな顔で振り返った。
「なにしてんだ?」
「え?」
「早く行くぞ」
「……は?」
私が彼の言葉の意味を理解できずにいるとしびれを切らしたように彼は戻ってきて私の腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと?!」
「早くしないと誰かに見つかるだろ」
「それなら1人で──」
「だから放って置けないんだって」
「いやもう、本当に大丈夫だから!」
少し歩いたところで私が腕を無理やり振り解くと、彼は私の着ている服や帽子を指差して言った。
「多分、初めてじゃないんだろ?ここ来るの。てか、相当好きなんだろ。なのに、このままだと嫌いになっちまうぞ。いいのか?」
彼の言う通り、私はここの年間パスを持っているぐらい好きだし、服も帽子も以前ここで買ったものを身に着けている。
嫌いになる──今はまだ分からないけど、その可能性は、充分にありえる。元カレを思い出して純粋に楽しめない、或いは嫌いになった──よく聞く話だから。
「それは……嫌、かな」
「だろ?だったら、初心者のオレにここのレクチャーをしてくれよ。役不足なのは間違い無いだろうけど、少しくらいは和らぐだろ」
「それ、結局事実は変わらないから意味ないと思うんだけど──まぁ、良いか。気にかけてくれたお礼はするべきだもんね」
少しの間、気分転換にはなるだろう。
元カレへの当てつけにもな──らないか。
「ただ問題は学校にバレないようにしないとなんだよなぁ」
周囲を気にしてたのはかくれんぼじゃなかったのか。なら、どうして1人なんだろ……なんか、聞いたらマズそうな感じがするなぁ。
「仕方ないなぁ、ほら、おいで」
近くのトイレに行き、手に持っていた紙袋を渡す。
「なにこれ?」
「変装グッズ。ほら、時間がもったいないから」
運命の出会いってこういう事を言うのかな 紅葉 @Nymph202
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