第12話

一宮が俺に憧れていた?

なんじゃそりゃ!


つーか、最初の頃の小馬鹿にしたような笑みは?

つーか、散散須賀のこと今までなんか、のろけてなかったか?

え?

どういうこと!?


「せ、説明してもらえるかな?そうじゃなきゃ、俺、眠れないから。」

「俺だって…眠れませんよ。なんか急に酔いが醒めた…。」


一宮はそういうと、また顔を上げた。

そして、言った。


「俺、うじうじすんの嫌なんです…とか言いながら結構うじうじなんですけど…確かにこの会社に入社したのは須賀さんの勧めもあってなんですけど…研修の時に筒井さんが俺らに講習してくれたの覚えてます?それから貴方のこと憧れて、根掘り葉掘りそりゃもういろいろ須賀さんに聞いたんです。同期だって言うし…仲もいいっていうから。」


思わぬ話の方向に俺の心臓は、もうドキドキと音を立て始めている。

どうしようか。

今すぐに抱きしめてもいいのだろうか?


「で、すごく優秀で同期では一番だって須賀さんも自分の事のように自慢して…だから俺、貴方に追いつけるように頑張ろうって。でも…配属先は別で…ショックで…そんなとき、本社から来た部長が飲みにつれていってくださって…なんか気に入られちゃって…でもそれをなんか変に噂されて、俺、何もかも嫌で辞めてやるって思ってたんです。」


立山の話を思い出す。

あぁ、それであんな噂がたったのかと。


「その時、須賀さんが連絡くれて、頑張れってもうすぐ、本社に席が開くからって…なんでかって聞いたら、『俺が辞めるから』って言うじゃないですか…!」


一宮は枕にボスッと拳を入れた。


「もう、わけわかんなくて…そんであの人、こうも言ったんです。『周ちゃんにはちゃんと言っとくから』って…筒井さん!?須賀さんに聞いたんでしょ?俺の気持ち!」


「へ!?え?」


「なのに、最初に会った時も貴方は全然動じてなくて…あぁ、俺なんか絶対問題外なんだろうなって…だから、俺頑張って…余計なことした須賀さんには絶対勝ちたいって!」

「え?へ?そういうこと?」

あの最初の日の不可解な笑みは馬鹿にした笑いではなく、自虐の笑いってことなのか?


「だって、あの人、なんでもベラベラしゃべって…俺の事なのに、昔っから俺の事になるとなんか妙に真剣に…自分のほうが真剣になっちゃって…。」


「一宮…俺、なんも須賀ちゃんから、お前の事聞いてないよ?」


今度は一宮がぽかんとする番だった。


「…え?」


あぁ、そうか。

そこで俺はすべてがわかってしまった。


須賀が言った一言。

妙に心に残った一言。


『俺はさ周ちゃんにはいろいろ敵わないんだよ。』


その「いろいろ」という言葉の99パーセントが、もしかしたらこの目の前でぽかんとしている男のことではないのだろうか?


須賀はもしかしたら、今の俺と同じように一宮の事がずっと…。


俺は思わず二宮をその場で抱きしめて言った。


「聞いてないけど…今、本人の口から聞いたからいいか…。」


「え?」


「俺は俺でいろいろ悩んだりしてたんだよ…お前みたいに優秀な奴を好きになってしまった事にどう対処していいかわかんなくってさ…。」


「…つ、筒井、さん?」


一宮の髪に鼻先を埋める。

彼の匂いは、なんだか懐かしい匂いで…。


これがスーツという鎧を脱ぎ棄てたそのまんまの二宮の素の匂いだということがとてもうれしい。


そして俺たちは……いや、…そのあとのことは教えてあげない。


だって俺たちだけの大事な時間だから。


ただ、不謹慎だけど俺は思ったんだ。

こんな幸せがきちゃったならば、明日のプレゼンの結果は…あぁ、神様!

どうか、明日は俺の腕の中で満足そうに眠る一宮の笑顔が見れますようにと祈りを捧げた。








THE END~僕が恋をしたのは君だった~




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕が恋をしたのは君だった 森下 伸 @morishita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ