第11話

静まり返った部屋。

三十分くらいたったであろうか、一宮は突然言った。


「筒井さん…俺、須賀さんには負けたくないんです。」


突然の宣言。


「あの人が転職した時、正直あの人を恨みました。」


一宮はきっぱりとそう言った。


「ずっと須賀さんの背中を追いかけて来たんです。高校のときからずっと…。なのに、急に転職するだなんてふざけてるって…そう思いました。そして、そうさせた貴方の事も恨みました。」


「え?お、俺を?」

なんだか完全に巻き込まれている…と正直思った。

一宮はまだ酔ってるのだろうか?


「えぇ…貴方の有能さに…須賀さんが転職しようと思った第一の理由がそれだったと思ったからです。」


その時、あの小汚い一杯飲み屋で須賀が、『俺はさ…周ちゃんにはいろいろ敵わないんだよ。』と、言っていたことを思い出した。


「でも…違ったんです…それが今日わかりました…。」

二宮は起き上がり布団の上にペタンと座った。

こうしているとまるで、寂しがり屋の中学生のようだ。


「あの人の方向性と、うちの会社の様に伝統的な事を重視する…そんなものが噛合わないってこと…だから、自ら新しい世界に飛び込んで行ったんだってこと…そりゃ最初は貴方から逃げているって思いました。でも、違った…あの人のやりたい企画は、この会社では通らない。」



一宮の言うことはよくわかる。

須賀は決して俺に敵わないわけじゃない。

ただ、方向性が違うだけだ。

それを生かすか殺すか…須賀は生かしてくれる会社を選んだってだけの事だ。


「わかっても…それがわかっても俺はあの人に負けたくないんです。だってあの人は俺を完全に裏切ったんだから。」


ずっとあの人の背中を追いかけてきた…と一宮は言っていた。


「それって…お前をおいて転職したってことか?」


曖昧な問いかけに一宮は俯いた。


「俺を置いていくなんて…って、俺、そんな子どもじゃないですよ。確かに付き合い古いし、須賀さんは優しいし面白いし、ああ見えて面倒見もいいし…でもあの人は…。」

そう言いかけて、一宮はまっすぐ俺の方を見た。


「筒井さん。」


「…はい。」


「須賀さんから聞いてるんですよね?」


「え?」


何が何やらわからない。



「俺が…俺が…貴方に…憧れているって…聞いてんですよね!?だったら、はっきり言ってください!気持ち悪いでもいいですよ!俺は貴方をずっと…ずっと…、」


一宮はそういうと、ハッと我に返ったようになり、たちまち真っ赤になると、うわーーー!と言いながら枕に顔を埋めた。










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