第4話 訓練校生活と邂逅

 

 アルティが訓練校に入学してから数日が経過していた。初めての一日が過ぎると、日常のリズムが少しずつ彼女の中に刻まれていった。訓練校の朝は早く、日の出と共に始まる。


 「アルティちゃん、早く起きないと遅れるよ?」


 優しい声で呼びかけるのは、同室のリリー・アスタル。彼女は小柄で、長い金髪のおさげが特徴的な少女だった。リリーのエイネンは『地』であり、彼女の能力は攻守ともに汎用性が高く訓練校での評価も高い。


「うん、もう起きてるよ!」


 アルティは寝ぼけ眼をこすりながら、ベッドから飛び起きた。制服に着替え、鏡の前で髪を整える。訓練校の制服は軍服を彷彿とさせるデザインで、機能的でありながらもスタイリッシュだった。


 朝の訓練が始まる前に、彼女たちは食堂で朝食をとる。食堂は広々としており、多くの訓練生たちが集まっていた。


 「おはよう、リリー。おはよう、アルティ!」


 元気よく声をかけてきたのは、隣のテーブルに座るリリーの友人、エレナだった。彼女は笑顔を浮かべながら、手を振っていた。


 「おはよう、エレナ!」


 朝食を済ませると、彼女たちは訓練場へと向かう。今日の訓練はエイネンの基礎的な使い方と応用に関するもので、アルティも意気込んでいた。訓練場では様々なエイネンの力を持つ訓練生たちが集まり、それぞれの能力を磨いていた。


 「今日はどんな訓練があるのかな?」


 リリーが興味津々に尋ねると、教官が厳かな声で説明を始めた。


 「今日の訓練は、エイネンの基礎的な使い方と応用についてだ。それぞれのエイネンが持つ傾向をどう活かすかを学ぶ。全力を尽くすように!」


 訓練が始まると、アルティは一心不乱に取り組んだ。彼女のエイネンの「開放」はまだ未熟であり、その使い方には苦労していたが、必死に努力を続けた。例えば、エイネンを用いた傾向操作能力の向上や、特定の状況での効果的な使用方法を模索することが課題だ。


 しかし、アルティだけは違う。彼女の持つ『開放』の能力とは他のエイネリアの出力を文字通り開放する。つまり、出力向上といった補助的な役割がメインになる。


 アルティのエイネンはエイネリアに対しての機能しか無く、彼女の思い描く人の為になるエイネリアへの道筋は険しい事を表している。


 しかし、希少価値の高い属性、傾向としては『具現』に該当するであろうその力は騎士団内に限らず聖国としての宝として認識されており、戦闘能力が皆無にも関わらずアルティは特待生として訓練を受けている。


「わわ……上手くできない……」


 他者に干渉するのみの力。自分の中では現時点で完結することが出来ないその力はアルティが行う訓練の難易度を他の訓練生の何倍にも引き上げていた。


「もう無理です……出力が高くなりすぎて制御できません」


「こんなに大きな力を使ったらほかの訓練ができません」


 アルティの補助を受けた訓練生や騎士団員は総じてその様な声を上げる。


 アルティの力が強いこと。そして、自身の持つ力の上限値が引き上げられることについていけないものばかりだった。


 その様子を、遠目から見つめて……いや、睨みつけている生徒が居ることも知らず時間が経過していくのみだった。


 訓練が終わり、昼休みになると、アルティとリリーは一緒に校舎の中庭で昼食をとることにした。中庭には美しい花々が咲き誇り、穏やかな雰囲気が漂っていた。


 「アルティ、ここに座ろうよ!」


 リリーが指差したベンチに腰掛け、二人はお弁当を広げた。談笑しながら昼食を楽しんでいると、突然、影が彼女たちの上に落ちた。


 「あなたがアルティね?」


 その声に振り返ると、そこには赤い髪の少女が立っていた。鋭い目つきでアルティを見つめるその姿は、先日校舎ですれ違ったウェスタ・ミレニアだった。


 「はい、私がアルティです。ウェスタさん……ですよね?」


 アルティは少し緊張しながらも、丁寧に応える。


 「ふん、覚えていたのね。まあ、いいわ。首席入学の私を差し置いて校長に呼ばれたっていうあなたのエイネンの力、見せてもらうわ」


「え、そんな急に言われても……私はまだ自分のエイネンも上手く扱えていないのに」


 そう弱気にアルティが返すと、ウェスタは「ふんっ」と鼻を鳴らしながら答える。


「そんなの生徒たちや騎士が落ちこぼれだからでしょう? 私なら貴女の力を受けても問題なくエイネンを扱えるわ!」


 自信過剰、では無いのだとアルティは思う。彼女の瞳は自信に満ち溢れている。


「分かりました。午後の訓練の時にお願いします」


 ウェスタは「分かればいいのよ」言ってその場を離れていく。急に話しかけられて緊張の糸が解かれたのかアルティはふーと息を吐く。


「大丈夫? アルティちゃん」


「うん、大丈夫だよ。それに何だかワクワクするんだ!」


 アルティの言葉を受けてリリーは頭にハテナを浮かべる。どちらかと言えば挑発とも取れる発言を受けた彼女が何故そんなにも前向きで居られるのか、リリーは分からなかった。


「ワクワクかぁ……アルティちゃんはすごいね。私はあんな風に言われたら怖くなっちゃうな」


 そう答えるリリーにアルティは、


「確かに少しは怖いなって思うよ。けれど、ウェスタさんは私の力を認めてくれてるんだなって思ったから!」


 眩しいほどの笑顔を向けるアルティをみて、リリーは昔から彼女はこういう人だと思い出す。


 自分がエイネンの適性がないにもかかわらず変わらずそばに居て、「すごいね!」と声をかけ続けてくれたアルティ。


 リリーは内心、自分もずっとアルティちゃんの味方だよと心に誓うのだった。

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