第4話

 駅の改札は一応自動化されていたものの、パスモを翳しても反応しなかったので、卓也はそのまま強引に改札を潜って外へ出た。


 さっき駅の構内から確認したとき同様、駅の外は真っ暗だった。駅付近には照明が存在しているので、完全に真っ暗闇というわけではないが、しかし、その駅を照らすライトの光は青白く、どこか薄気味悪さを漂わせていた。


 小さなロータリーにはもちろんタクシーは一台も停まっていなかった。それどころか、全く人影が見当たらない。いくら田舎の駅とはいえ、ここまでひとがいないというのは、やはりちょっと尋常ではないだろう。


 やはり俺は異世界へ迷い込んでしまったのだろうか? いや、そんな馬鹿な。卓也は頭を振った。『きさらぎ駅』の話なんて所詮誰かが創ったフィクションだろう。この科学万能の二十一世紀の時代に、異世界なんものが本当に存在しているわけがないじゃないか、と卓也はざわつく自分の心に無理に言い聞かせた。


 とにかく、怯えてじっとしていても仕方がない。卓也は取り敢えず目の前に存在する、さほど横幅があるとはいえない道路を前へ向かって歩き出した。


 もしかしたら、と、思ってスマホを開いてみたが、しかし、まだスマホは圏外のままだった。したがって、現在地をグーグルマップなどを使って確認することは不可能である。当然、今自分が歩いている道がどこへ続いているのかもわからない。


 ただ、常識的なことを考えれば、今自分が歩いている道は駅へと続く道なのだから、どこか広い通りへと通じているはずだった。そこまで出れば、車通りも増えるだろうし、現在地を示す看板だって出てくるだろう。


 そう思って歩きはじめた卓也だったが、歩みを進める度にもといた駅のホームに逃げ帰りたいような衝動に駆られることになった。


 というのも、駅から離れると、どんどん薄暗くなっていくのだ。

 

 やがて街灯は完全に姿を消し、周囲の空間は天然の闇に包まれてしまうことになった。とはいえ、今日は月明かりが明るいので、全く周囲の空間を視認できないわけではないのだが―――。


 今自分が歩いている道の右側は杉林になっている。一方、反対側はというと、小さな畑になっていて、その奥はやはり杉林になっている。今のところ民家の類は確認できなかった。


 と、そのように卓也が周囲の空間を確認していると、急に背後の空間―――より正確にいうなら、右手側の杉林が存在してる辺りから何か物音が聞こえてきた。はっきりとはわからないが、葉擦れのような音だった。


 一体何の音だろう? 気になった卓也は背後の空間を振り返り、音が聞こえてきた方向にじっと視線を注いでみた。


 だが、闇が深く、そこに何がいるのか、判別することは難しかった。確かに物音を聞いたような気がするのだが、しかし、実際は木々の葉などが風に揺れた音を誤認にした―――過剰反応してしまっただけだということも考えられる。


 いや、やはり何かいる―――少し経ってから、卓也は本能的にそう直観することになった。何かが闇に潜んでいて、こちらをじっと注視しているのだ。直接確かめたわけでもないのに何故そう言い切れるのか、卓也は自分でも上手く説明することができない。ただ感覚としてわかるのだ。何かが潜んでいる、と。


 何か獣の類だろうろうか? 卓也は思った。たとえばイノシシとか。と、そこまで思考を進めてから、卓也は慄然とすることになった。イノシシだって、今の卓也には十分すぎるほどの脅威である。いや、イノシシなら、まだいい。それがもし熊とかだったら⁉


 怖くなった卓也は走り出した。いや、走って大丈夫なのだろうか⁉ 走ると、余計に獣を刺激してしまうことになる気もするが―――しかし、卓也はじっとなどしていられなかった。とにかく、この場から離れたいと思い、卓也は全速力で走りだした。

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異界駅探索 @yousukefc236

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