第3話

 卓也は駅の反対側のホームへ移動することにした。現在卓也がいるのはさびれた田舎駅ではありながらも一応陸橋があり、その陸橋を渡って反対側のホームへ移動する仕組みになっている。



 卓也は錆びついて老朽化が目立つ陸橋を渡り、到着したのとは反対側のホームに立った。ここで念のためにスマホが使用できなかどうか確かめてみたのだが、しかし、結果は変わらずだった。インターネットに接続することができないのはもちろん、通話機能すら使用できない状態だった。



 卓也は以前として使用することができないスマホを見て不安を感じてしまうことになった。ただ単に携帯電話会社の設備に不具合が起こっていて、それで携帯電話が使用できないのであれば特に何の問題もないのだが、しかし、もしそうではなかった場合のことを考えると、卓也は胸の内側を誰かに強い力で鷲掴みにされたような苦しさを覚えることになった。



 駅のホームに立ち、電車がやってこないかどうか確かめてみるが、しかし、一向に電車がやってくる気配はなかった。東京都内を走る電車であれば、最低でも十分に一本くらいは走っていそうな気がするのだが―――。



 どこかに時刻表はないだろうかと思い、周囲の空間を見回してみると、卓也が現在立っている場所から左程離れていない場所に時刻表らしきものが設置されているのが確認できた。



 卓也は次の電車がいつやってくるのか確かめようと、その時刻表が存在している場所まで歩いて行った。



 そして実際に時刻表を確かめてみた卓也は、愕然としてしまうことになった。というのも、その時刻表は直射日光を浴び過ぎたせいなのか、文字が薄れてしまっていて、判読不能なのだ。かつてそこに文字と数字が書かれていたのだろうことはわかるのだが、しかし、具体的になんと書かれているのかはまるでわからなかった。またもし仮にどうにか読み取ることができたとしても、ここまで日焼けするままに任されていた時刻表が当てになるとも思えなかった。



「一体どうなってんだよ‼」

 卓也は訳のわからない苛立ちに駆られて叫んだ。しかし、叫んだところで、状況が改善されるはずもない。



 一体どうすればいい。卓也は頭を抱えることになった。取り敢えず今は電車がやってくるのを待つしかないだろう。いくらなんでも一時間以上も電車がやってこないということはないはずだ。



 卓也は気を取り直して、近くにあったベンチに腰を下ろした。そして恐怖心を紛らわすために、電波がなくても遊べるスマホのゲームをプレイした。



 しかし、状況が気になってなかなか思うようにゲームに集中することができない。それでも卓也は無理矢理ゲームを続けた。何もしないでいると、時間の経過がやけに遅く感じられるし、恐怖心も強くなっていくからだ。まだしもゲームをしていた方が気が紛れる。



 そうしてゲームを続けること三十分程が経過してから、卓也は顔を上げることになった。いくらなんでもいい加減電車が来てもいい頃である。自分が取り乱して駅の改札口に行っていた時間も含めれば、既にこの駅に到着してから一時間以上が経過しているはずである。その間、電車は一度も来ていない。卓也はずっと駅にいたので、電車が来ていれば、いくらなんでも気が付くはずである。しかし、卓也はここへ来てから一度も電車を見た記憶がなかった。



 卓也は強い後悔に駆られることになった。電車のなかで目を覚ましたとき、咄嗟の判断で電車から降りてしまったのだが、それがそもそも間違いだったという気がする。あのまま電車に乗っていれば、実は案外、最寄り駅に辿り着けていたのではないか? 少なくとも、今のようなわけのわからない状態にはなっていなかった気がする。



 卓也はそれから更に三十分ほど駅で待機していたが、しかし、相変わらず電車がやってくる気配なかった。


 だから、卓也は作戦を変更することにした。改札を出て、もし可能であればタクシーを見つけるのだ。少し歩けば、大きな通りへ出られるだろう。そこならタクシーが捕まるかもしれない。最悪それが無理でも、誰かに助けを求められるはずだ。

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