第31話 こっくりさん
校庭。唐突な利斗の歌唱に花子さん、そして破那虚も呆気に取られていた。しかし、歌が終わると破那虚は利斗をあざけった。
『きゃははは! あいつ恐怖で頭がおかしくなったんだ! うける! ばかみたい! ぎゃはは――』
破那虚の笑い声は体育館の屋根が轟音と共に吹き飛んだことで中断させられた。
『……え?』
「いや違う。『バカみたい』じゃない」
花子さんは目線をもうもうと煙が立ちこめる体育館の方に向ける。屋根を突き破って体育館から現れたのは、背丈が30メートルはある、真っ白い着物に身を包んだ、目のない狐の姿をした怪異、超巨大こっくりさんだった。まるで怪獣のような大きさのこっくりさんは目玉がないにのに、まるで見えているかのように、まっすぐ破那虚と花子さんの方をに鼻先を向けていた。
「あいつは『大バカ野郎』だ」
徹底的に間違えられた儀式で召喚されたこっくりさんは『ゴォォォン!』と大きく吠えた。巨体から発せられる声はそれだけで、あたりの物を吹き飛ばした。
『まずい! まずい! まずい! あれはまずい!』
桁違いの力を持つ怪異に危険を感じた破那虚は花子さんを地面に放り出し、その場から逃げ出そうとする。手近な下水管へ逃げ込もうと急ぐが、寸前でこっくりさんの巨大な手に捕まえられ、持ち上げられてしまった。
『ひぃぃぃっ! お願いします! 助けて! なんでもします! あなたの子分にでもなんでも――』
こっくりさんは破那虚の言葉を意に介さず、ふっ、と息を吹きかけた。瞬間、破那虚が真っ黒な炎に包まれた。
『ひぎゃぁぁ! なんでわしが! それがしが処刑されるんだぁぁぁ!』
破那虚はこっくりさんや炎から逃れようと悶えるが、何からも逃れられなかった。
『いやだ、消えたくない……消えた……な』
黒い炎に燃やし尽くされた破那虚はあっさりとこの世から消滅した。こっくりさんは次にその巨大な顔を地面に転がっている花子さんへ近づける。
花子さんはこっくりさんが近づいてくるのを見ると、逃げられないことを悟って目を閉じた。怪異である自分がこっくりさんに燃やされたあと、どこに行くかは分からない。でも叶うなら、こっくりさんを呼び出すために犠牲になった、利斗と同じところに行きたい。こんな馬鹿な真似をした彼にしこたまぶん殴ってやりたかったのだ。
「覚悟しとけよ、利斗」
「何を覚悟すればいいの?」
唐突に聞こえた利斗の声に花子さんは目を見開いて顔を上げた。声は目の前のこっくりさんの顔から聞こえたのだ。こっくりさんがゆっくり口を開くと、中には全身が真っ赤な血で染まった利斗がいた。
「ちょっと高いから牙を持つね、こっくりさん」
そう言うと利斗は牙を手すり代わりに地面に降りた。
「いやぁ、助かってよかったよ花――」
利斗が言い終わる前に、花子さんは利斗に駆け寄って抱きついた。
「花子さん……」
「このボケナス! 逃げろって言ったのに! アホ! バカ!」
「心配かけてごめんね、花子さん」
花子さんは涙が見られないよう、顔をこすってから利斗から離れた。そしてこっくりさんを見上げる。
「でもなんで。すごいめちゃくちゃな歌で呼び出したのに、利斗はこっくりさんに殺されてねぇんだ?」
「それが……」
利斗は言い淀む。代わりにこっくりさんが体を起こし答えた。
『ヴァハハハ! あんな愉快な催し物で呼び出されたのは初めてだ!
「ヒップホップです。楽器、と言っていいか分かりませんがFOXというAIを使って曲を作ってます」
『ひっぷほっぷ! 楽しい響きじゃ! それに楽器の名前もよい! わしを呼び出す輩の多くがしょぼくれた儀式しかせんもんだから、今宵はまっこと愉快だったわ! 気に入ったぞ利斗とやら! ヴァハハハ!』
楽しそうに手を叩くこっくりさんを見て、花子さんは利斗に「狙ってやったのか?」と視線を送った。利斗は肩をすくめて「予想外だったよ」と言葉なく語った。そして利斗は思い出したように言った。
「そうだ! 花子さん! 今なら学校から出られるかもしれない!」
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