第30話 招来(show rhyme)
利斗は体育館の壇上、校長先生が集会で話をする位置に立ち、マイクに――どこかで戦っている相棒に向かって言った。
「花子さん。逃げるって選択肢をくれてありがとう。でもごめんね。ぼくは最後まできみと一緒に戦うよ」
利斗はマイクを手に取ると壇上から飛び降りる。体育館の床にはプロジェクターが向けられていて、利斗の足元にバレーコートほどの大きさの画像を映し出していた。そして間もなく、シンセサイザーと管楽器の合わさった音楽が体育館のスピーカーから流れ始めた。画像も音楽もFOXが生成したものだった。
『a.k.a一身上! ここに参上!』
利斗はマイクに向かって高らかに吠える。そして――
『Yo! 闇の中で光るMoonlight♪ そっと囁く声がSay "Alright?"♪ 』
音楽に合わせ歌い始めた、韻を踏んだラップを。
『ひとり紙の上に手を置けばMystery♪ ぼくしか知らない世界へのJourney♪』
音程はめちゃくちゃだが、利斗は構わずにFOXが生成してくれた歌詞を歌い上げる。
『Ghost in the shell, 絡まるSpells♪ 未知なる存在呼び起こすBells♪』
利斗はでたらめにステップを踏む。彼の足元には赤い鳥居のマークが投影されていた。
『答えてくれ、問いかけにSay "Yes,"♪ 我らの願い、ここにConfess♪』
鳥居だけではない。利斗の足元には『はい』と『いいえ』の文字があった。そして五十音表も。
『So! だから今ここに颯爽と現れんか! 怪異として品格! 見せてみろ神格!』
そして、呼ぶ。花子さんすら恐れた怪異の名を。
『Say say say say おいでませい! Kokkuri-SAAAAN! Kokkuri-SAAAAN!』
マイクを投げ捨て、縦画面で映えそうな振り付けで踊る。満面の笑みでこっくりさんの名を呼び続ける。
「聖 生 政 斉 おいでませい! Kokkuri-SAAAAN! Kokkuri-SAAAAN!」
間違えた儀式の手順だけ、こっくりさんは怒って超レベルアップすると、花子さんは言っていた。
「セイ セイ セイ セイ!」
だから利斗は友人を縛ってきた怪異を倒すため、こっくりさんの儀式の間違え続けた。
「おいでませい!」
ひとりでやってはいけない、決められた道具を使わなければいけない、なによりふざけてはいけない。すべてのルールを全力で間違えた。
「悪霊たおせ、我らのこっくりさん!」
音楽が止まると同時に、利斗は10円玉を指で高く弾いた。10円玉は空中で不自然に制止したかと思うと、何かに引っ張られるようにして床の上の『はい』の場所へ落ちた。
すると、床に映し出された文字から血のような液体がにじみ出してきた。液体はどんどん体育館の床を満たしていく。禍々しい光景に儀式の成功を確信した利斗は満足そうに頷いてから言った。
「さようなら、花子さ――」
そして猛烈な力で血の池の中に引きずり込まれたのだった。
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