第25話 ぼくの学校の花子さんは青い瞳のガンマンなんだ
まもなく校長室に真理が呼んだ先生たちが来た。そしてすぐさま救急車が呼ばれ、校長先生は病院に運ばれていった。利斗が最後に先生たちの会話を聞いた限りでは「息はある」とのことだった。
ショッキングば場面を見てしまった利斗は先生から保護者である祖父母に迎えに来てもらうか聞かれたが、利斗は丁重に断って学校をあとにした。
その日の夜。利斗は晩御飯も食べず、祖父母の家のかつて父が使っていた子供部屋で机に向かいながら考えを巡らせていた。
20年前の七つ橋小映画クラブのメンバー。彼女が花子さんであることは疑いようもなかった。失踪した時期と花子さんが『目覚めた』と言った時期も合致する。
そしていきなりおかしくなって、利斗を責め立てた校長先生。利斗には彼女は何かにとりつかれていたように見えた。さらに「16人目の花子さんだ」と花子さんに告げた謎の声。花子さんにまつわる事柄には、謎の『第三者』が、それも悪意を持った何かが関わっていることは明らかだった。
その存在の思惑が分かれば、花子さんの身に起きていることが分かり、彼女を回復させる手立てが見つかるかもしれないと利斗は推測する。しかし、それがいかに難しいかも利斗は理解していた。
そもそも20年も学校にいた花子さんが、彼女自身が気にしていなかったとはいえ、その存在についてなにも知らないのだ。たかだか10年とちょっと生きてるだけ、しかも七つ橋小学校には半年しかいない利斗が、短期間でその存在の正体に独力で迫れるかは微妙だった。唯一、それらの障害を克服できそうな手段は――
「AIに聞く……か」
FOXを利用してのシュミレーションだ。生成AIの利用方法に各種情報をあらかじめ学習させたり、プロンプトに組み込むことで、AIをまるで生きている人間のようにふるまわせるという利用方法がある。音声や画像も生成させれば、ぱっと見は生きている人間と区別がつかない。
だがこの利用方法はAI推進派が多いパソコンクラブでも避けられていた。例えばこの方法を使えば死んだ人の情報を使って、その死者をあたかも生きているように『生成』することもできる。お金を出してでも死者と会話したいという人もいるが、倫理的に受け入れがたい人も多い。
利斗もこういったAIの利用方には反対だった。そして今回は悪意を持った存在、恐らく『怪異』を生成しようというのだ。恐怖を感じない利斗でも、この行為が冒涜的な黒魔術のように思えた。だが――
「背に腹は代えられないよね」
既に校長先生が被害に遭った。少なくとも普通の病気ではああはならない。花子さんも衰弱し、このまま八尺様やチクタクマンのように消えてしまうかもしれない。利斗はそれが嫌だった。利斗は意を決し、FOXを起動させると音声入力でFOXに語り掛けた。
「ぼくの学校の『花子さん』は青い瞳のガンマンなんだ」
利斗は話し始める。自分のこと、七つ橋小学校のこと、そこで出会った花子さんのこと、八尺様やチクタクマンそしてレギオンのこと。自分の体験してきたことをひとつひとつ、丁寧に、布に染料を染み込ませるように、AIに言葉を流し込んだ。あらかた話し終えたころには時計の針は夜11時を指していた。途中、お祖母ちゃんがお盆に載せて持ってきてくれた晩御飯もすっかりと冷めてしまっていた。
「FOX、これらの情報を踏まえて、花子さんに関する事柄で暗躍する怪異を生成し、その思考を再現して欲しい」
利斗は最後にそうFOXに指示した。だがFOXの回答は利斗の期待外れなものだった。
FOX:申し訳ありません。伺った情報で『暗躍する怪異』を再現することはできません。
利斗はうなだれた。時間を無駄にした徒労感で頭が重くなる。だがFOXが続けて文章を生成し続けたので、画面を見て生成文の成り行きを見守ることにした。
FOX:ですがいただいた情報をもとにホラーや怪談のアイデア出しをお手伝いできます。
FOX:例えば『七つ橋小学校のある場所が元処刑場』という情報はとても魅力的です。
FOX:処刑場で殺された罪人の魂が、現代でもなお恨みから人を襲い続け、20年前の女の子や校長先生が犠牲になった。という設定は歴史に基づいて説得力のある怪談になると思います。
FOX:あーでも
FOX:罪人の魂とかそんなキモイのがいたら、学校楽しくないよな わたしもいやだわ
FOX:ごめん。今の忘れてw
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