第4話 FOX


 花子さんが穴無し八尺様と戦っているころ。利斗は校舎1階の男子トイレの個室に座って今後のプランを考えていた。

 トイレに入るところは八尺様に見られなかったようだが、八尺様は追跡を諦めずに近くをうろついているようで、時折『ぽ』という特徴的な鳴き声と足音が聞こえてきていた。


「さて、どうしようか」


 利斗は花子さんのように武器を持っていない。持っていたとしても、勝てる相手ではないことは分かっていた。個室に隠れ続けても、いずれ見つかって殺されてしまう。なので出来ることいえば……


「逃げるしかないよね」


 問題はどこにどう逃げるかだった。相手は体格に優れる。歩幅からして違うので、逃げるルートや逃げ場所を間違えればあっという間に追いつかれて殺されてしまう。できれば花子さんが助けに来てくれるまでの時間も最大限に稼ぎたい。考えに考えた利斗は


「よし、AIに聞いてみよう」


 とスマホを取り出して汎用生成AI『chat FOX』を起動した。


 chat FOXは日本の有志が開発した生成AIのひとつだ。文章を生成したり画像を生成するといった、生成AIと聞いて皆が思い浮かべるような機能はもちろんのこと、画像の比較判断や音楽生成、さらには建造物の構造解析なども得意なAIだ。これらの機能があるのは、FOXが元は災害対策用として作られたAIだからだ。


 災害時に多くなるデマや、嘘の被害状況を伝えるAI生成画像の看破。娯楽が少なくなる避難生活を少しでも楽しくするための音楽生成。そして危険な場所からの避難のための構造解析。


 この日、利斗の帰りが遅くなったのは最新アップデートの適用と、この学校の地図データのインストールをしていたからだった。利斗は素早くテンキーをフリップする。


利斗:FOX、手伝って。

FOX:よろこんで、どういったことをお手伝いしましょうか


 FOXはオフライン時の動作も強かった。電波が入らない災害対策用にそう設計されていたので、通信圏外の今の状況でも問題なく動作した。利斗は命令文スクリプトを考える。不審者に追われている、としてしまうと隠れ続けるよう指示されて終わってしまう。八尺様には学校のトイレのドアはすぐ破壊されそうなので、なんとか逃げるための方法を生成してもらわないといけない。


利斗:いまホラーゲームで遊んでるんだ。攻略法を考えて欲しい。以下の指定する条件で敵NPCから逃げ出す最適な方法を教えて欲しい。


 条件1:構造物データ『学校1階』を参照。

 条件2:男子トイレ個室、一番奥からスタート

 条件3:敵NPCは大柄な女性。歩くのが早い。捕まるとゲームオーバー


 ここまで書き出して利斗は花子さんのことを思い出して条件を加える。


 条件4:味方NPCあり。敵を倒してくれる。


FOX:ハラハラする状況ですね。味方NPCはどうやって敵を倒してくれますか? 味方が戦いやすいようにあなたが動けば、ゲームを有利に進めることができるかもしれません。

利斗:銃を所持。西部劇にでてくるみたいなリボルバー拳銃がひとつ。ライフルみたいなものも持っているけど、どんな性能か分からない。わっかみたいなレバーがくっついている。

FOX:お話いただいた形状や、もう一つの武器が西部劇にでてくるようなリボルバー拳銃ということは、ライフルと思しき銃は『レバーアクションライフル』その中でも『ウィンチェスターライフル』という種類のものかもしれません。西部開拓時代に活躍したライフル銃で、ゲームでは拳銃よりも射程と攻撃力に優れる場合が多いです。味方がこの武器で戦えるように工夫するといいかもしれません。

利斗:そのライフルってどれくらいの距離の敵を狙える?

FOX:弾丸の種類によって変わりますが、実物の有効射程距離は150メートルほどです。開けた場所、この付近であれば外のグラウンドなどであればより力を発揮できるでしょう。

利斗:よし。じゃあグラウンドまでの最短ルートを出して。

FOX:かしこまりました


 すぐさま学校の地図と移動ルートが表示される。作戦は決まった。ギリギリまで八尺様を引き付け、逃走。グラウンドまで誘導する。花子さんにグラウンドにいることに気づいてもらう必要があるが、その方法はAIに聞くまでもなく利斗に策があった。最後に利斗は感謝の言葉を打ち込む。丁寧に接すれば、利斗の言葉を学習したAIもよりよい言葉で返事をしてくれる。利斗は生き延びて、またFOXを使うつもりだった。


利斗:ありがとうFOX。ゲームを楽しんでくるよ

FOX:良いゲームを。終わったら感想を聞かせてくださいね

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