夜と夢

@nodzumi

夜と夢

【夜と夢】



なにものかになりたいと

いっているばかりではなにものにもなれないと

しっていた

なにものかになりたいと

いっているひとになりたかっただけなのだ

ありふれたひとに



なんにでもなれるきがしながら

けっきょくなんにもなれないことをさとっている

なにかになってしまった、この、みで



このままおわれたらっておもいながら

だらだらとつづくことをこんきょなくしんじていて

はじまってすらいないさ、とうそぶく



いきをすう

いきをはく

みずをのむ

めしをはむ

うそをつく



ただまっくらなだけのきれいなそらを

ほしさえみえないよるを

まどごしにながめる



すいこまれるようにまどにひきよせられ

わたしのからだはガラスをすりぬけ

いしきだけ、そらにとびたたせながら

からだをズドン、としたにおとした



しかし実際の私がしたことはと言えば

窓をカラカラと鳴らしながら開け

吹くか吹かないか曖昧な夜風を

頬に受け闇を睨むだけ



落とした夢は

眠ったところで拾うことができず

そもそも持っていたかわからなくなる

落としてすらいない夢



夜を彷徨えば

夢の中でも見つからなかった「夢中」

なんてものを探り当てたりするだろうかと

信じもせずに頭に浮かべる



ゆめ、ユメ、夢

ゆめゆめ忘れるなと言われたところで

知りもしないものを忘れることなどできない

忘れもしない、覚えもしない



ゴツゴツとした現実に

あるいは生々しくぬめる現実に

押し流され抑えられるような中で



いいや、持ってしまえば夢もまた現実だろう

現実に夢を引き込む

その術が、知りたい



そうして、放り投げるのだ

夢などいるものか、と捨て去って

たしかに私にも夢があったと

満足して独り言つ


 

何者かになりたいと言っているばかりでは

何者にもなれないと

知っていた

何者かになりたいと言っている人に

なりたかっただけなのだ、ありふれた人に



ただ真っ暗なだけの綺麗な空が

星さえ見えない夜が

映る窓を見つめる



吸い込まれるように窓に引き寄せられ

私の体は硝子を擦り抜けず

意識さえ空へ飛び立たせず

窓から放り投げずとも

すでに落ちてしまったような体



そうだ、すでに落ちているのだ

落としているのだ

体も、夢も



それならば

探すことなどやめて

持っていたものを、もう捨てたのだと



嘘をつく、信じながら

たしかに夢を持っていたと

そうして、それを放り投げたのだと



解き放たれた思いで私は夜を眺める

夢などいらなかった、と笑う

笑い飛ばす、夢を



何にでもなれる気がしながら

結局何にもなれないことを悟っている

何かになってしまったこの身で



このまま終われたらって思いながら

だらだらと続くことを根拠なく信じていて

始まってすらいないさ、と嘯く



窓をカラカラと鳴らしながら閉めた

窓越しに夜を眺める

ただ真っ暗な空が私のようで誇らしかった



―了―

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