第15話 転移の罠
頭上の巨岩から目をそらさずに、シュミットにばれないよう、俺は片手を背に回し、背後のキャメロンに向けてハンドサインを送った。
“ジョセフを連れてこっちへ来い”
巨岩はどんどん鮮明になってくる。完全出現の一瞬手前で、背後のキャメロンたちが動き出した気配を感じた。
このタイミングで俺は全力で右手を引いた。手首に縛りつけた極細の糸は前方に伸び、シュミットの左足首に巻きついている。
マジックプロテクションは攻撃を自動防除するが、傷つける意図のない物理的接触には反応しない。その特性を利用して、先ほどキャメロンの援護の岩つぶてをシュミットがたたき落とした際、視線が俺から外れた瞬間に見えづらい極細糸を奴の左足首に絡めておいたのだ。
もちろん、足をとったところで、シュミットにとってどうということはない。体のバランスを崩し、精々が一、二歩ほどたたらを踏む程度だろう。
実際、シュミットは二歩ほど踏み出しただけだ。魔方陣の中へ。
ヴォンと低い音を立てて古代魔方陣が輝きを放ち、稼働を始める。
シュミットは足首の糸を叩き切ると、俺の顔を直視した。先ほどのゆとりに満ちた表情はどこへやら、うろたえた顔つきで大声で叫んだ。
「貴様、これが狙いだったのかッ」
そうだ、その通りだ。先ほど接近戦を仕掛けるために走った時、思いついた。
魔力切れの俺が踏み込んでもこの魔方陣は反応しないが、魔力が残っている人間が踏めば動き出すのではないか。それも、余人が比肩し得ないほどの膨大な魔力量を誇るシュミットのような人間ならば、スターターとしては十分ではないだろうか。
動き出した魔方陣からは、もはや逃げる術はない。シュミットは凍りついたままだ。
キャメロンとジョセフが傍らに飛び込んで来た。
直後、魔方陣が放つ光は膨れ上がり、俺の視界を真っ白に染めていく。
次の瞬間、俺たちは転移空間に投げ出された。
“あ、ワイバーンの素材をキャメロンのマジックバッグに入れっぱなしだった。もったいないことしたな…”
最後に思い浮かんだのは、そんなケチな思念だった。
ワンダリングジャーニー~異世界放浪記~ zenzen @zenzenji
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