第14話 なぶり殺し
さすがに宮廷魔導師長だけあって、シュミットは手練の魔法使いだった。しかも、こちらが嫌な攻撃ばかりを繰り出してくる。容赦ない性格がむき出しだ。こいつは絶対にまともな幼少期を過ごしていないな。
わずかな間に俺とキャメロンは空間魔法で全身を締めつけられ、風魔法で切り裂かれ、火球で打ち倒された。キャメロンが防御魔法で必死に防いだが、相手のほうが何枚もうわてだった。
やっとの思いで、祭壇の岩を一部剥がして楯とし、その陰にひぃひぃ言っているジョゼフを放り込み、俺たち二人も倒れこんだ。
倒れたままでキャメロンがささやく。
「こりゃあ歯が立たない。このままじゃ、なぶり殺しだよ。僕が援護するから、あんたは突っ込んで接近戦に持ち込んで欲しい」
少し考えて、それしかないと俺も同意した。すでに俺の魔力は尽きているから、中長距離の攻撃はやりたくてもできないのだ。
問題はいかに相手に隙を作らせるか。
キャメロンは分身体を複数作ることで、この難題に挑んだ。
十数体の分身体“キャメロンズ”が岩の楯から飛び出し、上下左右からバラバラにシュミットをめがけて飛びかかっていく。本体のキャメロンは元の位置に留まり、分身体の援護攻撃を行っている。
異なる方向からの複数同時攻撃だから、さしものシュミットも広範囲攻撃一発というわけにはいかず、おのずと手数が増える。分身体を一体消すにはほんの一秒ほどの時間で十分だが、バタバタと対応しているうちに数秒程度は容易に稼げる。
その“空白時間”を利用して、俺はシュミットの背面に回り込み、一太刀を浴びせた。
ガッと衝突音が鳴り、奴の体表に細いイナヅマが走る。やはりマジックプロテクションを使っていたか…。
マジックプロテクションは、物理攻撃を防御する魔法体を体にまとわせる防御魔法術だ。それほど珍しいものではないが、やたらと魔力を喰うことから、普通は後裔の魔法使いなりが前衛の戦士に突入時にかけてやる、といった使い方をする。
自分自身にマジックプロテクションをかけ、同時に魔法攻撃も操ることができるのは、シュミットの魔力量の多さを物語っている。
ともあれ、魔法防御が施されているなら、接近戦に持ち込んでもさしたる効果は期待できない。
俺は慌てて撤退しようとしたが、ちょうど“キャメロンズ”の最後の一体を消し終えたシュミットは余裕をもってこちらに向き直った。
「魔力切れで接近戦を狙ったか。浅知恵もいいところよな。おぬしのような三流戦士がどうあがこうと、そうそう不覚をとるワシではないわ」
カンッ。
シュミットは横目で飛んできた岩つぶてを視認し、杖の先で軽々とたたたき落とす。キャメロンの援護も不発に終わった。万事休すか。
次の瞬間、俺の体は空間魔法で拘束され、そのまま空中に放り出された。受け身をとることもできず、背中から岩の上に叩きつけられる。
全身を走る衝撃。こ、呼吸ができない。
必死に立ち上がったが、顔に打撃をくらい、続いて強烈なボディブローを突き刺されて苦悶しながらよろよろと後退した。
シュミットはニヤニヤ笑いながら前進してくる。拳の代わりに魔力で固めた空気を打ち出しているのだ。
打撃をくらっては後ずさり、を続け、挙げ句にズダボロになってぶっ倒れた。もはや視界もかすんでおり、自分の足もとしか目に入らなかった。どうやら俺が倒れこんでいるのは魔方陣の中らしい。
笑いを含んだ声が降って来た。
「おうおう、ひどい有り様じゃな。このまま捨ておいても死ぬるは時間の問題じゃろうが、ひと思いにトドメを刺してやろうぞ。ただ、今おぬしがいるのが魔方陣の中心部分というのが厄介じゃな。…こうするか」
シュミットは目を中空に据え、小声で詠唱を唱え始めた。ぼんやりと俺は上を見上げ、巨岩が輪郭を現したのを認めた。
俺を狙って魔法を打ち込み、もし逸れて魔力が伝わると魔方陣が稼働してしまう恐れがある。だから重量物を上空に召還し、そのまま落して潰そうという目論見らしい。
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