第13話 黒幕シュミット
魔物の殺到を覚悟していたが、ややあってやって来たのは意外な相手だった。
ぼんやりとした燐光をまとって空中を漂ってきた中年男は、音を立てずにふわりと魔方陣の向こう側に降り立った。
豪華なローブを身にまとい、手には強力そうな杖、痩せこけた顔には顎ひげを生やし、厭味に整えてある。典型的な大物魔法使いの風貌だ。
男はしばらくこちらを値踏みするように見つめた後、おもむろに口を開いた。
「お初にお目にかかる。わしは宮廷魔導師長のベルハルト・シュミット。おぬしらがあまりに手を焼かせるゆえ、わざわざ出張って来たというわけじゃ」
俺は笑った。
「黒幕のお出ましてってわけか。光栄だな」
シュミットは肩をすくめた。
「一応の確認だが、ジョセフを引き渡して手を引く気はないか。さすれば命までは取らぬ。相応の褒美もつかわそう」
俺も肩をすくめた。
「あいにくだが、前払いで結構な報酬をもらっちまってるんでな。俺たちの商売では契約違反は御法度だ。それに、別に恨みはないが、あんたのことはちと気に食わないんだよ」
鼻で笑ってから、シュミットはキャメロンのほうを向いた。
「確か以前に宮廷で会ったことがある。ギルシュタット侯爵家の次男坊だったかな。おぬしも同意見か」
キャメロンは薄笑いを浮かべた。
「僕もあんたが気に食わない。何しろ父上のかたきだからな。つまり、僕には恨みがある」
予想外の話に俺は驚いた。こいつは貴族の出身なのか。しかも、シュミットが父親のかたきだって。まったく、どうでもいいことはべらべらしゃべるくせに、大事なことは何も言わない奴だな。
ギルシュタット侯爵の一件なら、俺も耳にしたことがある。密かに目論んでいたクーデター計画が露顕し、侯爵を筆頭とする一味がことごとく断頭に処されたという事件だった。確か十年ほど前の話で、侯爵家は取り潰しになったはずだ。うかつだったが、ギルシュタットという姓はそう珍しくないし、俺の知り合いに貴族など居るわけがないと思い込んでいて、キャメロンが関係者の一人だとは思わなかった。
シュミットは嘆息した。
「大いなる誤解があるようだが、言っても詮ないことよのう。何しろ…」
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
「おぬしらはここで死ぬのだからな」
もはや待ったなし。戦闘開始だ。
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