第2話
『ヒナゲシ騎士団』の朝は決して早い訳ではない。
騎士たるもの、万全の体調で物事に当たるべしという教訓の下、騎士団員達は十全な体調管理が求められているが為である。
とはいえ日々の鍛錬や業務が楽かというというと決してそんな訳ではなく、むしろ肉体の限界というものを把握した上でそのちょっと前くらいのところまで酷使させられる訳なので、結構辛い。
お陰で毎日ぐっすり眠れるし、最初の頃は筋肉痛がヤバくて朝はメチャクチャ辛かった訳だが、今はもう筋肉痛で目が覚めるなんて経験をする事はほとんどなくなってしまった。
なんだかんだ肉体が鍛え上げられているんだなーと、少しだけ感慨深くなる。
そしてそのかなり過酷な鍛錬、業務などを俺達騎士団員達に与えていたのは当然騎士団のトップである騎士団長、その名もクラウス。
しかし彼は今大量発生したモンスターの群れを駆逐する為に王都から離れているため、今、王国の王都に残っている団員達はいずれ来る出動の時に備え、日々を過ごしているのであった。
が、ここに一人例外が存在する。
「ふいー、あっくんのご飯はいつも美味しいねっ」
この女、勇者リリー。
この人は文字通りの意味で王国の決戦兵器な訳で、彼女もまたモンスターの大群の駆逐の命を受けて該当地域へと向かっていた、その筈だった。
しかし何故ここにいるのかというと、どうやら毎日現地でひたすらモンスター、そして魔物を討伐してきたらその足で王都に帰ってきているらしいのだ。
ちなみにだが、そのモンスターが大量発生している場所と言うのは王都からかなり離れている場所にあり、少なくとも馬車などといった移動手段を用いたとしても人間が日帰り出来る距離にはないのだ。
じゃあなんでいるのかというと、本人は自力で帰ってきているのである。
飛んで。
……彼女の保有している『スキル』は『聖剣』。
これは名前の通り強力な武装である聖剣を召喚する『スキル』であるが、しかしそれ以上でも以下でもない。
彼女が移動に用いている飛行魔法は彼女が自力で修得したモノであり、だから『スキル』とは一切関係がないのだ。
『スキル』とは関係のない力を『スキル』を持っている人間と同じ、あるいはそれ以上の熟練度で修得している人間、それこそが勇者リリーなのである。
そう言う意味で、俺の目指すべき目標。
あるいは羨望すべき相手なのかもしれないけれども。
「うふー、あっくん好き!」
そんな彼女にどうして俺が好かれているのか。
分からない、全く持って。
彼女と騎士団の団員として出会ってからまだ一年ちょっとしか経過していないし、更に言うと彼女と顔を合わせて交流した時間も決して長くはない。
なのにも関わらず、気持ち一杯の「大好き」を毎日貰っている。
だからなんだか、気恥ずかしい。
……そうやって気持ちを恥ずかしげもなく表現出来る事もある意味、羨ましくもある訳だがそれはさておき。
「もぐもぐごっくん」
俺が作ったポトフをパクパク食べているリリー。
そんな姿を騎士団員達は微笑ましげに眺め、それからすぐに自分の食事に取り掛かっている。
当然休み時間も貴重というか、休みをしっかりとる事も半ば義務になっているので、ここで休みを逃すと明日が辛いのは誰もが知っている。
だから俺も食事を取って休むべきなのだろうが。
しかし、俺には食事当番の他にもう一つ役割がある。
それは、「勇者係」である。
なんじゃそりゃって思うかもしれないけれども、これはつまり勇者リリーの相手をする係である。
ふざけた役割と思うかもしれないが、しかし現状本気で彼女はこの王国の戦力の半分以上を単体で有していると言われている。
その彼女のコンディションを保つためなら、そりゃあ「勇者係」なんてものだって作ったりするだろう。
ちなみに、その「勇者係」の仕事と言うのはリリーが望む事をすべて叶えてあげる、というものである。
オーマイゴッド。
彼女がひたすらにいろいろな事を要求してこないのが本当に助かっている。
あるいは、そんな彼女だからこそ「勇者係」なんてものを作ったのかもしれないけれども。
「ん?」
と、そこで俺は彼女の頬に野菜の欠片が張り付いているのを見つけた。
がっつがっつとご飯を食べているから気づいていないみたいだ、全く子供っぽいなもう。
俺はそれを手でひょいッと取り、捨てるのも勿体ないから食べる事にする。
うん、出汁が沁み込んでいてやっぱり美味しいな。
と。
「……」
「?」
なんか「ぽーっ」と頬を赤らめている勇者リリー。
な、なんだ何かあったのか?
「あ、あっくんって時々素で変な事するよね」
「なんだそりゃ」
素で変な生き物みたいな存在に言われたくないなと思った。
モンスターを必殺するタイプの最強系ヒロインが全力で俺にアプローチしてくる カラスバ @nodoguro
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