モンスターを必殺するタイプの最強系ヒロインが全力で俺にアプローチしてくる

カラスバ

第1話

 この世界と言うのは基本的に理不尽だ。

 いや、モンスターという人外……ただ人間を殺す為だけに存在している生き物なのかも分からない奴等がいるというのも確かに理不尽だが、しかしそれ以上に思うのは人と人との間にある絶対的な『個体差』である。

 足が速かったり、覚えるのが速かったりとかそういった次元ではない。

 この世界には確かに『個体差』というものが存在し、そしてその顕著な例というのはやはり『スキル』だろう。

 この世に存在するすべての人が保有するスキル。

 それは人間が取る行動に補正が入るように作用するものだったが、中には「これ絶対人間には起こせない事だよね?」って奴も普通に引き起こせてしまう『スキル』だって存在するのだ。

 だからこその、『個体差』。

 あるいは実力差とも表現出来るかもしれないけれども、しかし産まれた時から持っている『スキル』の差ってだけでそれを実力と表現するのは些か腹立たしかった。


 そしてそんな事を考えている俺という人間、つまりアーサーという男は果たしてどのような『スキル』を所持しているのかと言うと、『コック』である。

 そう、コック。

 料理をするのが極めて上手になる『スキル』であった。

 ……俺にとって料理というのは目をつぶっても出来るような、文字通り朝飯前の行動である。

 そして食というのは人間にとって欠かせないものであるが故、俺という人間は割といろいろな人間達から引っ張りだこになっていた。


 しかし、しかしである。

 俺は思うのだ。

「スキルの有無で己の人生が左右されるというのはなんだか腹立たしくないか」、と。

 そして、そんな風に思ったからこそ俺は魔物討伐の為の騎士団、王国の「ヒナゲシ騎士団」に所属するという人生を選ぶ事にしたのだった。


 で、まあ。

 

「専ら食事当番になってばかりなのだけど」


 俺はつるつると包丁で野菜の皮を剥いたりしつつそうぼやく。

 当たり前だが、戦闘系の『スキル』を持っている人間に対して俺は一度も勝てた事がない。

 例によって使いたくない表現だが――向き不向きの問題とも言える。

 そして俺は当然のように「不向き」側の人間であり、「向き」側の人間には当然勝てない。

 しかし、それが世界の理が決めたモノだとするのだったら反抗したくなってくるというのが俺の性。

 と言う訳で今日も今日とて料理当番の仕事をすべて終えて食事の準備を終えたら素振りの一つでもしようかなー、とかそんな風に思っていると。



『彼女』が。


 ……現れた。


「あっくん、帰ったよ!!!!!!!!」


 キッチンに響き渡る大声。

 俺はぎぎぎ、と振り向きたくないと拒否している身体を強引に動かしてその大声の主がいるであろう入口の方へと向き直った。

 

「り、リリー様……」

「もー。毎回言っているけど、リリーと呼んでって言っているよね!?」

「い、いや。しかし貴方は勇者ですから……」

「次点で、リリーちゃん」


 むしろちゃん付けの方がハードルが高いのではと思いつつ、俺は彼女――リリーの姿を観察する。

 勇者、リリー。

 一騎当千、怪力乱神とも謳われる人類最強の存在。

 そんな彼女はぱっと見華奢な少女の様相をしている。

 が、しかし。

 

「……今日は、仕事帰りですか?」


 綺麗そうに見える白銀の戦闘服を見てそのような感想を述べると、彼女は「いやあ?」と首を横に振った。


「魔物ぶっ殺してきたけど、ほら。キッチンを汚す訳にはいかないじゃん?」

「……」


 ここで言う「魔物」というのは一般的なモンスターではなく魔力によって強化された存在であり、ありていに言ってしまえば戦闘系『スキル』を所持した人間が複数人で戦う。

 そのように指示されるような存在を、彼女は基本的に単騎で圧倒する。


 勇者、リリー。

 時代と世界が違えば、彼女は間違いなく「化け物」と表現されていただろう。


「んふー」


 そんな彼女は、俺の顔をジロジロ見ながらにんまりと笑った。


「今日も、格好良いねあっくん。大好き!!」


 屈託のない笑顔でそんな言葉を吐いて来る彼女。


 ……しかし、いろいろな意味で俺はその言葉を正面から受け止めきれずにいるのであった。

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