第37話《Last》
学校。星崎さんは人格を二つ持っているという説明がなされ、意図も容易くそれが受け入れられた。偏見もなければ怪奇な目を向けられることもない。もちろん大きな混乱も。事前に担任が記憶を失っていることを説明していたり、市川さんが変わらずに星崎さんに接していたり、なによりも私の大好きな星崎さんがずっとこの日のために根回しをしていたから、大きな混乱はないのだろう。本人は上手くできなかったと、評していたが私はそうは思わない。この今があるのは間違いなく彼女の功績であるのだろうから。
「青山」
市川さんと私の席の合間ににゅっと生えてくる星崎さん。モグラ叩きのようにひょこっと割って、きょろきょろと見渡す。ピコピコハンマーで頭をホイッと叩けばぴよぴよしてしまいそうな雰囲気さえあったりする。
「放課後しか話せなかったから新鮮」
「あー、あれなんでだったんです。もうそういうもんだって割り切ってたんですけど」
「ん、言ってなかったっけ。いや絶対言ったと思うけど。まぁ何回言っても良いか。恥ずかしかっただけ。青山はかなり私のタイプなんだよ。あ、顔がね。顔が。一目惚れってやつかな? 顔を見た瞬間に好きってなったの」
星崎さんは恥じらいなく淡々と答える。そんな様子を間近で見ている市川さんは心底つまらなさそうな表情を浮かべていた。もはや睨んでるよ、これ。
というかあの可愛いってのはお世辞でもなんでもなく本心だったのか。この人はなんというか物好きだなぁ。物好きだからこそこうやって縁があった。物好きに感謝するべきなのかもしれない、と少し思ったりもする。
「でもやっぱり二日に一回しか話せないってのはかなり辛いかも。裏では会えてるから尚更。会えるのに話せないって拷問みたい」
二人の星崎さん一日おきに入れ替わるということであの時話がついていたらしい。今日は私が好きな星崎さんで、明日は私のことか嫌いな星崎さん。でまたその次の日は私が好きな星崎さんって形だ。私と大好きな星崎さんが会える回数はぐんと減る。純粋に二分の一になってしまう。まぁだからこそ、一日一日を大切にしようと思う。
「決まりですから。仕方ないですね」
私だって……という気持ちはもちろんある。でもこれで綺麗に丸く収まったから、変なことをしたくないという気持ちが勝る。結果としてしょうがないよね、とワガママモンスターな溜飲を下げる。
「……イチャイチャなら他所でやれ、他所で。アタシに見せつけんじゃないよ」
ケッと市川さんはどこぞのおばさんみたいに捨て台詞みたいなのを吐く。
「市川さんもしますか?」
「するわけないでしょ」
「市川さんとなら私良いですよ。友達ですし」
と、ふざけて誘ってみると、真ん中に挟まれている星崎さんは心底不満そうに私のことをぐぐぐと睨む。
「浮気」
「違います」
「浮気だよねー、これは。うんうん」
市川さんは面白いおもちゃを見つけた! という感じでニヤニヤし始めた。解せない。
「だから違います」
しっかりと否定する。そんな姿を見てさらに市川さんはニヤニヤする。悪手だったかぁと今更ながら後悔した。
「違う? ほんと?」
星崎さんは椅子の背もたれに手を置いて、ぐっとこちらに近寄る。艶やかなで恍惚は表情に私は毒されそうになった。うっと倒れてしまいそうな気持ちを堪える。
「私にとって星崎さんは唯一、かけがけのない大事な人なので」
「面倒だけどね」
市川さんは今日一のニヤつき顔を見せた。
私と星崎さんは顔を見合せる。それから揃って市川さんへ目線を向ける。二人からの眼差しに少しだけビクッとした市川さんだったが、すぐに飄々とした空気に戻る。
「市川うるさい!」
「市川さん喧しいです!」
星崎さんと私は声を揃え、市川さんを非難し、三人でくすくす笑った。
こうして私には愛すべき大切な人が一人、これからも親しくすべき友人が一人、あとはやけに私のことを嫌ってくる人が一人……できましたとさ。
星☆崎さんっ!〜女子高生と女子高生のごっこあそび〜 こーぼーさつき @SirokawaYasen
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