第3話 職探しに困難は付き物
20XY年8月、僕が会社をクビになってから2ヶ月が経とうとしていた。僕は2ヶ月前に会社を辞めてから今この時まで、栃木県某所にある自室のアパートで独り、引きこもり生活を続けてきた。ご飯は一日二食のコンビニ弁当。日中は家でYouTubeを観る。夜は23時に寝て、朝は11時に起きる。まー、僕のこの二ヶ月を一言でまとめると、何て言うか、僕は自分自身の自己肯定感を自ら下げ続ける生活をずーっと続けていた。そんな訳で僕は会社を辞めて以来、ただただ時間を浪費し続けていたのだった。
しかし、僕のこんなぐうだら生活も長くは続かなかった。なぜなら二ヶ月間も働かなかったせいで、僕の貯蓄が底をつきそうになったからだ。もっと正確に言うと、ついに口座の残高が予想以上に少なくなり、貯金もほとんど底をついてしまったのだ。
(おいおい、49歳にもなって独り暮らしを続けているような人間には、貯蓄だけはあるんじゃないか?と思われる方もいらっしゃると思うので、少し補足する。確かに僕は50歳間近で独身で、今まで結婚したこともない。そのため、一般的には貯金が結構貯まっているのではないかと考えるのが普通だ。しかし実際のところ、僕の貯金はびっくりするくらい貯まっていない。なぜなら、僕は自分が稼いだお金のほとんどを趣味であるパチスロに注ぎ込んでしまうからだ。(ちなみに僕がパチスロで好きな機種は『ケンガンアシュラ』である。原作から好きだったから、いつも何となく脳死で打っていた。しかし、最近はそれすら打つ余裕が少しずつだがなくなってきた気がする。)はっきり言って、僕はパチンコや競馬などの賭け事はあまり好みでは無い。しかし、日々の中で生まれてくる虚無感とストレスを発散させるには賭け事が一番なのだ。そんなバカみたいな考えで、僕は毎日を生きている。)
僕の生活が限界に近づいているのは、口座の残高だけが示しているわけではなかった。毎日同じような日常を繰り返し、自分を唯々蔑み、無駄に時間を消費するだけの生活に当たり前だがうんざりしていた。自分が馬鹿みたいに自暴自棄になっているこの生活を、日々考えてはただ無力さが募るばかり。こんな状況から抜け出さなければ、どんどん深みにはまってしまうということは経験上自分でも理解しているつもりだった。
このまま勝手に自己満で悲観して気持ち良くなってるのもバカみたなので、僕も流石に重い腰を上げることにした。(てか、自分自身の自己満にこれ以上付き合える程僕も子供では無かった。何年社会人してきたと思ってるんだ。)寝床から這い出し、ボロボロのスーツに着替え、薄汚れたジャケットを羽織って、近くのハローワークへ向かうことにした。歩きながら、心の中で何度も「これで変わる」と自分に言い聞かせる。何もしないままの状態を続けるより精神衛生上まだ良かった。
ハローワークに着くと、まずは受付で必要な手続きを済ませる。その間、周囲の人たちがさまざまな職を求めて並んでいるのを見ながら、なぜか少しだけホッとする自分がいた。僕もまた、多くの人たちと同じように、何かを掴むためにここにいるのだという事実に、ちょっとした安心感を覚えた。
担当者に案内されて、面談室に入る。少しばかり緊張しながらも、何とか自己紹介を終え、現状を説明する。自分が過去にどのような仕事をしていたのか、なぜ辞めることになったのか、これからどうしたいのかを大雑把だが話す。
「今後の職探しについてですが、何か希望する職種や業界はありますか?」担当者が質問してくる。
まあ僕自身特にやりたい事も無かった為、
「まあ、今までの仕事はそれほど好きでもなかったですし、何か少しだけ新しいことに挑戦出来たらいいなーとか思っています。」とテンプレぽく答えながら僕は面接を終えた。(まあ実際の所、面接は形だけであって、本来の目的は求人リストをハローワークから貰って帰る事だった。)
面談が終わり、求人数の多い求人リストを受け取って、僕は帰路についた。これからどんな仕事が見つかるのか、どういう展開が待っているのかはわからないが、少なくとも今の自分を好転させる為に第一歩を踏み出したことは間違いなかった。
その日の夜、僕は家で今日のハローワークで貰った求人リストを独り眺めていた。さすがに50歳間際の無職に見合う職はどれも、工場のライン工やの土木系の肉体労働ばかりだった。これまでエアコンの効いた部屋でぬくぬく仕事をしてきた僕にとって、これらの仕事は少しだけ気が引けた。しかし今の僕にそんな贅沢をいう余裕は無い。そんなこんなで僕は、取り敢えず謎に給料だけは良い「学校の夜間警備」の求人に応募する事にした。
この時はまだ知らなかった。何となく応募したこの夜間警備の求人が、ありふれた僕の人生を思いもよらぬ方向に動かしていく事を。
49歳で無職になりました いよ @lili_102
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