第2話 会社を辞めた所で人生はいつも通り

20XY年6月、僕の人生を揺るがす大事件が起こった。


とある日の朝、いつも通り僕はバスに乗って出勤していた。何気ない朝だった。このバスの中では、通勤中のサラリーマンや通学中の学生達で溢れかえっていた。僕はいつも通り、もはや定位置でもあるバス前方の一番前の席に腰かけて何となく外の景色を眺めていた。もうかれこれこのバスには30年近く乗っているが、見慣れすぎたバスからの風景を眺めるのは好きだった。

40分程バスに揺られているとバスは終点であるバスセンターに到着した。僕はいつも通りバックの中から財布を取り出し、降車口で640円払って外に出た。バスから降りると少し蒸し暑さを感じた。僕の正面にある電光掲示板には、現在の気温が31度と表示されていた。通りで蒸し暑い訳だ。僕は外にいると暑くてたまらないので、急いでバスセンター入口にあるコンビニに早足で入った。コンビニの店内は冷房が効いていてとても涼しく、ずっとこの場所で涼んでいたいぐらいだった。しかし今日は朝の8時から朝礼があるため、僕は600mlのブラックコーヒーだけ買ってから直ぐに外に出た。ここから職場までは歩いて10分程の距離なので、コンビニから職場まではあっと言う間に到着した。そして僕はエントランスに着くとエレベーターで僕の部署がある4階まで向かった。そして僕はいつも通り自分の席に着いていつも通り決められたタスクを開始する。それがもう20年以上続けてきた僕の日課だった。しかし「今日だけ」は日課通りに事は進まなかった。会社に着くと直ぐ、エントランス中央に設置してある経年劣化で古びた掲示板の周りに20人程の人だまりができている事に気づいた。何の人だまりだろうか?この時期に人事異動は無かったはずだが?流石に気になった僕はそのままの勢いで人だまりの方に向かった。掲示板の周りでは集まった全員が落ち着かない様子で掲示された一枚のA4用紙を静かに見ていた。何が発表されたのだろうか?僕はおそるおそるその一枚のA4用紙に目を向けた。


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              整理解雇について(お知らせ)          

当社を取り巻く経営環境は極めて厳しい状態となっております。こうした事態を打 開するため、これまでも営業の強化、経費の節減、資産の売却、採用の停止、希望退職の募集など経営努力を続けてまいりましたが、今だ明るい見通しが立っておりません。そのため………………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

1 解雇人数:   80人

2 解雇対象:   20XY年度12月1日時点で50歳以上の者。ただし会社が経営上特       

          に必要とする者は除きます。

3 解雇日: ………………。

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………振り込みます。

                             以上

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僕は今年の秋で50歳になる。だから僕は20XY年度12月1日時点で50歳以上の者という解雇条件に当てはまる。だから僕は会社をクビになる。だから僕は、……………。

だから、だから僕は、………。………………………………………………………………

何だが吐き気がする。急いでトイレに駆け込んだ。その後の事はよく覚えていない。


そうして僕は50歳目前で会社をクビになった。

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