第26話 『英雄』の『剣』
「【編纂せよ】」
神域に一つの唄が響き渡る。
「【此れより綴るは、新たなる
唄と同時に生成されていく、数多の『英雄』武器。
「【かつての英雄よ】」
「【汝らは、誰の為に戦ったか】」
「【汝らは、何の為に戦ったか】」
「【そこに唯一の答えはなく、故に汝らは旅を続けた】」
紡がれた、果て無き旅を続けた『勇士』《英雄》へ送る唄。
「【旅に終わりはなく、汝らの想いを継ぎし者達が
「【だから、英雄達よ どうか、空の向こうから見ていてくれ】」
「【此の地に、新たなる英雄が生まれる瞬間を】」
そして、最後の一節を終え、俺は静かにその『銘』を告げる。
「『
今、ここに―――新たなる
―――――――――
『な、なんですか、この力は……⁉』
俺の『真銘解放』によって溢れ出す力に、『女神』は動揺を露にする。
「何って、ただの人間が頑張った結果―――奇跡を起こしただけだよ」
自身の身体が光り輝いているのを確認しながら、俺は『女神』へ視線を送る。
『くっ……ですが、この『拒絶』の前に何もかもが無意味ですよ!』
そう言いながら、漆黒の剣を振るう『女神』
しかし―――
『なっ、消えた⁉』
―――その攻撃は俺に当たることなく、空を切る。
『……いえ、消えたわけではありませんね。攻撃が当たる直前、貴方の身体が光の粒子へと変わっていましたよ』
「へぇ、よく見えたな。かなり一瞬だったはずなんだがな」
『剣は一部の粒子に触れていましたが、『拒絶』はあまり効果がないみたいですね』
「さぁな。もしかすると、そう思わせているだけかもしれないぞ?」
『まぁ、人間の小細工など、通用しないので関係ありませんね♪』
そう言うと『さぁ、早く突撃してきなさい』とばかりにカウンターの構えを取る『女神』
『女神』の判断は正しい。
何故かは分からないが、『拒絶』の力が俺には効いていないとなればどうしても実体に戻らなければならない攻撃の瞬間、障壁と剣による二重の盾で迎え撃つという作戦は間違いなく最適解だろう。
しかし、今の俺達に対し、その行動は悪手だった。
なぜなら―――
「行こうか、義姉さん」
「…………うんっ!」
光の粒子となった俺が理華の元へと集まっていく。
『……えっ』
その光景を目にした『女神』から唖然とした声が漏れ出る。
その声音から伝わる、『信じられない』と言う感情。
『貴方、正気なのですか……?』
「正気に決まっているだろうが」
『あ、ありえない! う、嘘です! 過去にそんな事をした人間は……!』
「信じられないか? だが、コレをやった人間がいない、っていうのは間違いだぜ、クソ『女神』」
『そ、そんなはずはっ……! ……いえ、まさか、本当に?』
「あぁ、そうだぜ―――」
自身の中で組み上げられた推察を何度も反芻させる『女神』へ、俺は『答え』を教える。
「―――俺自身の武器化! 過去の『英雄』と同じように、俺の全てをもって、お前を倒してやる!」
『ッ⁉』
驚く『女神』へ振るわれる、光り輝く一振りの剣。俺が『真銘解放』によって自身を武器へと変えた状態であり、使い手は理華。
一流の剣士にも負けず劣らずの実力を持つ理華が放った一撃。
『ッ……武器化には驚きましたが、結局は障壁と『拒絶』を攻略できなければ、貴方達に勝ちはありえないのです!』
それを『女神』は絶対の自信を持って、第一の盾である障壁で防ごうとするも、
パリンッ!!!!!!
『そ、そんな、また障壁が⁉』
「障壁だけではありません!」
一瞬で砕かれた障壁の残滓を見て狼狽する『女神』へ、容赦なく追撃を放つ理華。『女神』はその一撃を『拒絶』で受け止める。
本来であれば、触れた瞬間に跡形もなく消滅するのだが……
『き、消えていない⁉ どうして⁉』
万物を滅するはずの『拒絶』が『
額に汗を滲ませる『女神』に対し、俺は腹の底から大きな笑い声をあげる。
「そうだよなっ! 自分の切り札が通用しないっていうのは、信じられないよな!」
「はっ!!!!!!」
『クッ……』
流石は『女神』と言うべきか、呻きながらも絶え間なく振るわれる剣を紙一重で捌いていく。
しかし、理華の攻撃の手は一切緩むことなく、むしろ苛烈さを増していく。
「ここです!!!!!!」
『ウッ……⁉』
そして、遂に『女神』の身体に小さくはあるが、傷をつける事に成功した。
「よしっ!」
「いいぜ、義姉さん! これならいけるぞ!」
「うんっ!」
『ど、どうして……どうして、私の、攻撃が……』
肩を激しく上下させる『女神』は未だ、俺達が自身の障壁や『拒絶』を突破できた理由に見当がつかず、混乱していた。
「簡単な事ですよ。貴方も司が剣となった時点で理解しているのでしょう?」
『…………英雄、ですか』
「えぇ」
苦々しい声で呟く『女神』へ、肯定を返す理華。
俺の『英雄神話』は『真銘解放』によって、自身を御伽噺の存在である『英雄』と同じ存在へと昇華させる―――『英雄化』が可能となる。
『英雄神話』はその名の通り、『英雄』という概念を司っており、俺自身が『英雄』と定義した物に対して、絶大な強化がかけられる。
俺が定義する『英雄』とは”どんな状況でも、最後には勝利を手にし、人々に希望を与える存在”
そして、その為なら文字通り”何でもする存在”だあること。
つまり、
「ハァッ!!!!!!」
「いいぜ、いいぜぇ!」
『さ、捌ききれない……!』
―――今、この場においては誰よりも『英雄』である。
しかし、当然、このような規格外の強化に代償はないはずもなく……
『……ですが、やはり信じられません。まさか、ここで命を使い果たすつもりとは』
「……それに関しては、私も同意見ですね」
一柱の『女神』と、一人の少女の呟きが神域に響き渡る。
そう、俺はこの戦いが終われば、確実に死ぬのだ。
誰かの為に戦った結果、最後にはその命を落としてしまう悲しき英雄譚の一幕。
それらと同じように俺もこの一戦に全てを捧げ、己の身体を武器へと変えた結果、最後には光の粒子となって消えることが分かっていた。
『本当に人間とは……いつだって、
その時だった。『女神』の雰囲気が再び変容し、どこか懐かしい物を見るかのような視線でこちらを見てきた。
『このまま、ダラダラと持久戦に持ち込まれたら、私が負けるでしょうね』
「そうだな」
『だから―――次で決めます』
そして、瞳に強い意志を宿した『女神』が腰を低くする。
「はっ、一撃必殺ってやつか。いいぜ、受けてやるよ!」
「私達で、貴方を倒します!」
それを俺達は真正面から迎え撃たんと、同じように構えを取る。
互いに全身から力を振り絞る。
『女神』は漆黒のオーラを剣へ纏わせ、俺達は
『―――――――――行きます』
「―――――――――はいっ!」
両者がそう呟いた次の瞬間、漆黒と白金の線が神域を駆け抜ける。
『――――――
「「――――――
互いが放った全力の一撃が神域の中心で激しく衝突する。
『はぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』
「「はぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」
共に一切引くことなく、ただ『勝利』のために己の全てを振り絞る。
そして———
「俺達の……」「私達の……」
「「勝ちだぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」
―――俺達の一撃が、『女神』の身体を切り裂いた。
『―――ふふっ、お見事ですっ♪』
深手を負った『女神』はそんな状況でも笑みを保ち、そのまま光の粒子となって消えるのだった。
俺達は静かに光の粒子が空へと舞っていくのを見つめると、腕を高く突き上げ――
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
「あぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
―――勝利の雄たけびをあげるのだった。
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