第24話 全能ノ神王


『【傾聴せよ これよりは真なる神話物語】』



 神域に響き渡る、真なる力を解放せし唄。



『【あらゆる想いの原点たる、神秘の物語】』


『【何人にも変えられぬ、至高の神々が送りし物語】』


『【我はここに、その伝説を後世に伝え続けることを誓う】』


『【故に、神々よ どうか、我に汝の力を】』



『グギャァ……!』


 尋常ではない力の奔流に【神罪ノ影】は斬撃を飛ばすも、『戦姫光鬨ヴィクトリア』の『栄光』により聖司の周りに展開された障壁がそれを阻む。


『ッ……⁉』


 驚きを見せる【神罪ノ影】を前に、聖司は自身の『偽神兵装』の銘を口にする。



全能ノ神王ゼウス―――真銘解放オーバーロード



 高らかな宣言と共に―――人類最強の本気が今、解き放たれた。



―――――――――



 詠唱を終えた聖司の手元には一本の槍があった。白金色に光る槍を構える聖司に対し、【神罪ノ影】は漆黒の斧を生み出し、同じように構える。



『グギャァアア……!』


 本能で危険を感じ取った【神罪ノ影】が先手必勝とばかりに、神速の踏み込みで聖司との距離を詰め、斧を力いっぱい振り上げる。


 しかし―――


「遅い」

『ッ⁉』


 ―――その一撃を聖司は簡単に槍で叩き落とし、ガラ空きだった胴体へ拳を打ち込んだ。


『グギャラァ!』


 果敢に攻めようと【神罪ノ影】は持ちうる技を惜しみなく放っていく。


 しかし、そのどれもが聖司には通ることなく、反対に聖司の放つあらゆる攻撃が【神罪ノ影】に少なくない傷をつけていく。


「す、凄い……」

「これが防衛隊最強の本気……」


 ある程度、回復した隊員達がその姿に尊敬の眼差しを送る中、彼方は一人、静かに戦いを見つめる白皇へ声をかける。


「白皇総隊長……一つ、尋ねてもよろしいでしょうか」

「……何かしら?」

「白皇総隊長は、どうして総隊長聖司が『真銘解放』をここまで使わなかったのかを知っていますか?」

「……どうして、そんなことが気になるのかしら?」


 首を傾げる白皇に、彼方は自身の考えを述べる。


「『真銘解放』が大きな代償―――寿命を削る代物が故に使うのを渋るのは分かりますが、それでも隊が全滅する前に使わなかったのは納得が出来ませんでした」

「……そうね。彼らしくはないわね」

「はい。なので、同じ立場である白皇総隊長なら、何か知っているのではないかと思いまして……」

「……えぇ、確かに私は、正確には私達、総隊長は何があったかを知っているわ」

「……教えてもらうことは可能でしょうか?」

「……誰にも言わない、というなら貴方だけには教えてあげるわ」


 その言葉に「お願いします」と返しながら頭を下げる彼方。白皇はその姿に軽くため息をつき、彼方に顔を上げさせると、過去の出来事を話し始めるのだった。



―――――――――



 彼はね、一言で言うと『天才』だったの。


 一般隊員の頃から他よりも頭一つ抜けていて、『偽神兵装』もあっという間に使えるようになった。


 さらに『真銘解放』もちょっとした裏技を使うことで、寿命を削らずに使うことが出来たの。まぁ、その裏技は彼にしか出来ないのだけどね。


 まぁ、色々あって、彼は若くして一番隊の副隊長にまで登り詰めた。



 生まれ持った才能と、そこそこの努力だけで成長した『天才』


 当時の話題は彼のことばかりだったわね。多少、自信家な所はあったけど、任務で失敗することはなく、また仲間のことを大切に思う、とても優しい人間だったわ。



 けど、ある日のことだったわ。


 大規模な【影】の侵攻が起きて、私達は当然、戦場に駆り出された。


 その中で彼は最前線で仲間と共に戦った結果―――当時の一番隊総隊長を含め、およそ八割の仲間を彼は失ったわ。


 よくある話、とまでは言わないけど、彼一人では圧倒的な物量で攻めてくる【影】から全員を守ることは当然、出来ないわ。


 周りは「お前はよくやった」「誰もお前を責めたりしていない」とか声をかけていたのだけど、彼は必要以上に自分を追い込んでいき、自身の傲りであり罪の証である『真銘解放』を決して使わないと決めたの。



 その鎖を引きちぎった今―――彼は世界中の誰よりも強いわよ。



―――――――――



「フッ!」

『グギャアアアア……!』


 『全能ノ神王ゼウス』が司りし概念は『王権』


 あらゆる物体、事象に対し『王』となることで『誰よりも強い存在』へと己を昇華させた聖司の攻撃が【神罪ノ影】の身体を容赦なく貫いていく。


『グギャアアアア…………!!!!!!』


 身体の至る所を貫かれた【神罪ノ影】がこの戦闘が始まって、最も大きく不快な叫び声を上げると、次の瞬間、斧が十数倍の大きさとなって戦場に巨大な影を落とす。


「文字通り、最後の技か……ならば」


 それを見つめながら、聖司は自身の槍、肉体へ『王権』を発動させる。圧倒的な強化がかけられた槍を両手に聖司は不敵に微笑む。


 先に飛び出したのは、やはり【神罪ノ影】だった。


『グギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』


 自身の放てる最速、最重の一撃。


 仮にこれを他の総隊長が食らっていれば、【神罪ノ影】は勝っていたかもしれない。


 しかし、今、【神罪ノ影】の目の前にいるのは『人類最強』である。



「―――神雷槍ケラノウス

『―――――――――ァ、ァア』



 聖司の放った一撃が【神罪ノ影】を塵一つ残すことなく消滅させた。



「す、凄い……あんなの、司達でも……」

「だから言ったでしょ。彼は誰よりも強い、って」



 他の隊員達と同じように唖然とする彼方に対し、白皇は笑みを浮かべながら、聖司の方を見つめるのだった。



「あとはお前達だけだ、司、理華―――頑張ってくれ」



 そして、聖司は別の場所で最後の戦いに臨む二人の子供へ、静かにエールを送るのだった。



~~~~~~~~~


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