英雄大戦記 ～少年は『剣』となりて『女神』と討つ～

第23話 戦姫光鬨

　最初に変化があったのは、地上の部隊だった。

『グギャ……？』

　【神罪ノ影】は目の前で瀕死となって倒れる総隊長達の異変に疑問の声を上げる。

　戦闘不能となったはずの総隊長達の身体が輝きだしたのだ。

『グギャ！　グギャグギャ！』

　その姿に危険を感じ取った【神罪ノ影】が『女神』を無視して、止めを刺そうと武器を振るうも、その攻撃は立ち上がった総隊長達に受け止められる。

「まだっ、行けるよな、海城……！」

「もち、ろん、だっ……！」

　近接部隊である焔と海城が肩を激しく上下させながら、戦意を漲らせる。

「立ちなさい、馬鹿弟……！」

「分か、ってるよ……！」

　遠距離部隊である天音姉弟も同じように立ち上がり、己の得物を【神罪ノ影】へ向ける。

　それに続き、他の総隊長達も次々と立ち上がっていく。

『グギャ……⁉　グギャグギャ……！』

「はっ……俺達が立ち上がったのが信じられないのか？　まぁ、そうだよな。寿命をギリギリまで削って、それでも勝てず瀕死となった俺達が立ち上がるなんて奇跡としか言いようがない。だがな―――」

　焔は驚いているかのように見える【神罪ノ影】に対し、剣を構え直し、

「―――悪いが、こっちには奇跡を呼ぶ『最強』がいるんだよ！」

　ゴォオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンン！！！！！！

『ッ⁉』

　その直後に轟音が鳴り響き、辺り一帯に砂煙が舞う。突然のことに【神罪ノ影】が戸惑ったような態度を見せるなか、砂煙から一人の少女が悠然と歩いて来る。

「皆さん、お待たせしました」

　光り輝く槍と軍旗を両手に持った神木理華が力強い声と共に戦場に降り立った。

「おいおい、理華。動いても大丈夫なのか？」

「大丈夫ではありませんけど、皆さんが命を賭けているのです。私もそれに応えなければならないでしょう？」

　「何か問題でも？」と視線で問いかける理華に、焔は思わず笑みを浮かべる。

「はっ……流石、司が惚れた女なだけはあるな」

「なっ⁉　そ、それは今、関係ないでしょう！　というか、どこからその情報を⁉」

「ほれ、そんなことより来てるぞ～」

「ッ！」

『グギャ！』

　途端に顔を真っ赤にする理華に、焔は迫りくる【神罪ノ影】の方を指す。その一撃は神速の域に達しており、普通なら反応できない程だ。

　しかし―――

「フッ！」

　―――理華は綺麗に躱し、反撃に鋭い一撃を放った。

『グギャ……⁉』

　懐に強烈な一撃を食らった【神罪ノ影】が悲鳴を上げながら、吹き飛んでいく。

「あれで久しぶりの戦闘か……自信を無くしてしまうな」

「気にするな、海城。あの子が特別なだけだ。それに―――」

「ハァッ！」

『グギャアアアア……！！！！！！』

　態勢を整えようとする【神罪ノ影】に容赦なく追撃を仕掛ける理華。

「―――『英雄神話（司の武器）』と同じ、規格外の『偽神兵装』もあるからな」

「『戦姫光鬨（ヴィクトリア）』……司る概念は『勝利』と『栄光』だったか？」

「あぁ。味方に『勝利』を掴み取る力を与え、『栄光』と言う名の喝采でさらに能力を上げる、あの子だけが使うことの出来る唯一無二の『偽神兵装』だ」

　その強化は最早、強化と言う枠を逸脱しており、常に限界突破の状態で戦うことが出来るようになるほど能力が向上するのだ。

　故に―――

「これで、一体」

『―――――――――ァ、ァア』

　―――勝負は一方的なまま終えるのだった。

　理華の放った一撃によって綺麗に身体を貫かれた【神罪ノ影】は悲鳴を上げながら塵となって消えていった。

「すみません、焔さん！　もう一体はお願いします！」

「あぁ、こっちは任せて、旦那さんを助けに行ってやりな！」

「まだ旦那ではありません！　もうっ、頼みましたからね！」

　そう告げると、理華は神域に一人、崩れかけた『虹』―――神域に突入するのだった。

「さて、と……」

『グ、ギャア……』

「警戒するよな、あんなの見せられたら」

　顔はないにもかかわらず、怯えているように見える【神罪ノ影】に対し、焔は大剣をゆっくりと構え、

「安心しろ、今の俺達はあの子よりは弱い。だが―――」

『――――――ッ、ギャァ！』

　勢いよく振り下ろす。

　それによって生まれた巨大な斬撃をギリギリで躱すも、地面を転がる【神罪ノ影】を見つめる焔。

「―――お前よりは、強いかもしれねぇな」

　そして、大きな自信を宿した言葉と共に、焔達はこの大戦における自身らの最後の戦いに身を投じるのだった。

―――――――――

「お父さん！　大丈夫⁉」

「……あ、あぁ、理華か」

　神域に突入した理華は『勝利』のために『女神（敵）』を倒すと言う『戦姫光鬨（ヴィクトリア）』の力を活かし、信じられない速さで司のいる一歩手前の領域に到達した。

「こちらは大丈夫だ……それよりも司のところへ行ってくれ」

「け、けど、そんな身体じゃ……」

「司は今、たった一人で『女神』と戦っているのだ」

「ッ⁉　ど、どうして⁉」

「分断されたのだ。司以外の神域に突入した隊員は全員、『女神』によって、この領域に飛ばされた」

　聖司の言葉に驚きと迷いを顔に浮かべる理華。

　聖司はそんな理華を落ち着かせようと、頭の上に手を置きながら告げる。

「大丈夫だ、理華。今は『戦姫光鬨（お主の武器）』による強化がある。それに―――ここで私の『真銘解放』を使う」

「ッ⁉」

　その言葉を聞いた理華の目がさらに見開かれる。

「……使うのですか？」

「使わねば勝てないだろう」

「それは、そうですが……」

「理華」

「ッ！」

　今も迷いを見せる理華に、聖司は一言。

「―――信じろ、私達を」

「ッ！　……分かりました、ご武運を！」

「あぁ」

　立ち去っていく理華の姿を見つめながら、聖司は小さく息をつく。

　そして———

「【傾聴せよ】」

　―――唄が始まった。

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